「コウ、どうかした?」
ある日の朝。コウと合流したアムロはコウの異変に気がついた。アムロですらわかるほどコウの様子がおかしかったのだ。
明らかに元気がない。というよりも、静か過ぎる。元気なのがとりえというようなコウが、である。
「なに、変なものでも食べたの」
「ん〜、わかんないんだよね、それが。なんか昨日からだるくってさ」
「コウは毎日ハリキリすぎだって。そりゃ疲れもするよ」
「そうかなぁ、でもがんばらないとガトーに勝てないし・・・」
そんなになってまでやるなよ!とアムロは思ったが言っても無駄だとわかっていたので結局口には出さなかった。
その日、午前の授業の間、コウは机に突っ伏したままだった。
昼休みになって先に学食へ来ていたシャアとガトーのところへコウとアムロがトレーをもってやってきたのは昼休みが始まって10分ほど後のことだった。
「なんか今日混んでるんだけど〜」
アムロが少々愚痴りながらシャアの向かいの席に座る。コウもその隣にトレーを置き座ろうとしたときシャアがおかしなことに気がついた。
「ちょっと、まってくれ。コウ君、それだけしか食べないのかい?」
そういわれてアムロとガトーがコウのトレーに目をやるとそこにはなんと、たぬきうどんひとつしかのってなかったのだ・・・!
「あ、うん。なんか食欲ないんだよね」
変だ、今日のコウは絶対にどこかおかしい!と朝からコウと一緒だったアムロもようやくそう思った。だって、普段のコウはこれくらいじゃ足りないどころか、食べたうちに入らないはずなのに!
「コウ、お前ちょっとこっちに来い」
そのときガトーがちょいちょいとコウを手招いた。コウはテーブルにトレーを載せるとガトーのそばに寄った。
「何、ガトー?」
ガトーはコウを少ししゃがませるとぺたり、とコウの額に手を当てた。
「わ、な、なになに!?」
いきなり当てられた手にびっくりして後ずさりしようとしたコウだったが、右腕をガトーにつかまれて動くに動けなくなってしまった。
「いいからおとなしくしろ」
「う〜、なんだよ〜〜」
早く逃げたくてじたばたするコウを押さえつけてガトーはぴったりと額に手を当てていた。
「馬鹿か、お前は!」
手を離すとガトーはいきなりコウを怒鳴りつけて、頭を小突いた。
「いって、なにすんだよ、いきなり!手当てたかと思ったら今度は怒るって!」
「お前が悪い!自分の体調管理くらいきちんとせんか!」
「疲れてることくらいわかってるよ!だから今日は部活も―――」
「疲労でそんなに高熱が出るものか!風邪に決まっているだろう!」
「え・・・、風邪?あ、そういやなんかふらふらするような」
そういうとコウの体がいきなりふらりと傾いだ。
「わー、コウ?!」
アムロが慌てて立ち上がって支えようとしたが、一応日本人平均以上のコウを支えきれず、倒れる直前でガトーがコウをつかんで何とか床に直撃は免れた。
「まったく、なんて奴だよ〜!」
普通は倒れるほど熱があったら気づくはずなのに、コウときたらそんなところまで鈍感なのか?!
「アムロ、怪我はないか?」
「あ、うん。大丈夫、でもコウはどうするの」
ぐったりとしたままガトーの腕に抱かれたままのコウを見てアムロが心配そうにしている。
「さすがにこのままにはしておけんだろう。・・・私はこの後授業はないからしばらく面倒をみる」
「じゃあ私はどうするんだい」
コウがシャアのベッドに寝かせられるとなると、シャアの帰る場所がなくなる、ということなんだが・・・。
「・・・どうせ帰ってこんだろうが」
「まぁ、ね」
ガトーはくったりとしたままのコウを仕方なく抱き上げると学食を後にした。
「なんかさぁ、少女漫画みたいになってきたね・・・」
「見ていられないね」
残された二人はまったりと昼を過ごしていた。
(まったく、世話の焼ける・・・)
コウを抱き上げて校内を歩いていたガトーにさすがに皆は注目した、というか注目しないほうがおかしいかもしれないが。
なんせただでさえ目立つガトーがお姫様抱っこをしているのだから!それもコウだし。
しかしそんなことにも気を留めず、ガトーが考えていたのは
(おじやでも作るか。・・・何かあったか?あぁ、まだちりめんじゃこが・・・)
なんてことだった。
(なんか、いいにおいがする〜)
ふと鼻をくすぐる香りに眠りから起こされたコウは周りを見渡して驚いた。
「何で、ガトーんち・・・?」
かすれ気味の声でも届いたらしく、キッチンに立っていたガトーは冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出してコウの寝ているベッドへやってきた。
「ようやく目が覚めたか。ほら、飲め」
体を起こそうともがくコウを起こしてやり、ペットボトルを手渡した。
「あ、ありがと。ね、何で俺ガトーの家にいるの?」
「覚えとらんのか?」
「うん、昼ごはん食べに学食行ったのは覚えているんだけど・・・」
ガトーはふぅ、とため息をつくとキッチンに戻った。
「あの後倒れたんだぞ。まったく、自分の体調管理くらいしっかりとせんか」
コウのもとへ戻ってくるとガトーはゴチン、と頭に拳骨をひとつ食らわせた。
「う〜・・・、ごめん」
「まあいい、とりあえず食事だ。食べんと薬が飲めんからな」
そういってコウの前にお盆を差し出した。上には小さな土鍋がひとつ。ふたを開けるとふうわりとあがる湯気といい香り。
「わ、おじや?」
「あぁ、あたたかくて消化にいいものがいいだろうと思ってな」
「ありがと」
コウは早速ガトーの作ってくれたおじやを食べ始めた。
土鍋を洗い終わって再びベッドのそばに戻ると、さっき食べ終わったというのにコウはすやすやと寝息を立てていた。
「本当に世話の焼ける奴だな」
ガトーはコウの額に浮いた汗を拭って毛布を掛けなおすと読みかけの本を読み始めた。
「・・・がとー」
急に名前を呼ばれてコウのほうを見てみたが、眠ったままだった。どうやら寝言だったらしい。
「つぎこそ、・・・・・・勝つぞぉ」
「・・・・・・お前という奴は・・・」
コウの寝顔は・・・あいも変わらず幸せそうな顔だった。
それからコウはガトーの献身的(?)な看病のためか3日ほどで学校に顔を出すようになった。
コウを寝込ませた季節外れの風邪は入れ替わるかのようにアムロとシャアに被害が及び、二人は1週間ほど寝込むことになった・・・。
「ガトー、君、もう少し病人に優しくしようとか思わないのかい!?」
「看病にきてやってるだけありがたいと思え!だいたい二人同時にかかるとはどういうことだ!」
「どうでもいいから二人とも静かにしてくれよ!あ〜、あたまいてぇ」
「アムロー!シャアさーん!見舞いにきたよー!」
突き抜けるような秋晴れの空の下。4人の声が響き渡る。
いつもと変わらない、4人で過ごす一日。何事もないけれど、それが幸せな初秋の一日だった。
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