何故、と言われたらまんまるだったからとしか言いようがない。
まんまるだったから。
・・・コウの頭が、あまりにまんまるだったから。
「・・・なあ、これ運んで良い?」
「・・・ん、あぁ」
自分でも何故、今日この日に限ってこれほどまでにコウの頭の形が気になるのか分からなかった。分からなかったが気になるのは確かだ。その丸みが。その形が。
その日、二月半ばのその日、留学生会館の部屋はいつも通りの倦怠に満ちていた。後期試験はとうに終わっている。学生にとっては非常に長い、春休みの一日を馴染みの四人で寄り集まって過ごしている。
シャアは自分のベッドの上に。アムロは、遠慮がちに声を掛けた後、正反対の場所にあるガトーのベッドの上に。それぞれに雑誌などを読んでいる。シャアはファッション雑誌を、アムロはゲーム雑誌を、だ。
・・・そしてコウは、手伝いになっているのかなっていないのかはなはだ怪しいが、キッチンに篭るガトーの周囲をうろついている。
「・・・」
いっそ、何処かでじっとしていてくれた方が邪魔にならないのに。
「なあなあ、これ凄く美味しい感じになる?」
「あぁ」
だが、コウはひょこひょこと自分の周囲を動き回り続けるのだった、その異様にまんまるい頭と共に。・・・なんだ、あの頭は。中身入ってるのか、手で掴んで揺らしたらその小さい脳みそが音を立てるのではないか。
・・・そう思ってしまった。
・・・そう思ってしまったらもう止まらない。
「・・・ふぎゃっ」
無意識にキッチンと部屋を行き来するコウの形の良い後ろ頭を掴んでしまっていたらしく、しかもそれを自分の胸に押し付けてしまっていたらしく、叫び声で我に返った。
「いや・・・すまん。なんだお前の頭は。中身入ってるのか」
「入ってるよ! ひどい、ひどいんですガトーが! ・・・シャアさん!」
「あぁ、はいはい・・・聞こえてるけど痴話喧嘩は余所でね? 私もアムロもそんなの聞かされたら速攻で見て見ぬ振りだよ」
「うん、見えてねぇ。聞こえてねぇ」
「・・・」
それぞれ雑誌に目をやったままで、シャアとアムロが冷たい。
・・・なにコレ、俺大ピンチ!?
と、コウは思った。・・・どうして!?
何故、と言われたらまんまるだったからとしか言いようがない。
まんまるだったから。
・・・コウの頭が、あまりにまんまるだったから。
「だって母さん、俺のこと大好きだって言ってたし!」
「だろうな、乳幼児の頃によほど愛を込めて育てられなければこれほどまんまるい頭にはなるまい。愛が足りずに寝かされ続けると絶壁になるんだ、絶壁に」
「・・・って、だからなんで俺の頭ー!」
「いや、だから。中身が入ってないのではないかと改めて心配になってな」
「入ってる! 超ちゃんと、入ってるから中身!」
「・・・そうか」
そんなガトーとコウのやりとりを聞きながらアムロは非常に眠くなって来た。
掌にすっぽり納まる程度の、コウのまんまるな後ろ頭を、嬉しそうに掴んでいるガトー。
髪に指を通し、揺すって、撫でて、確かめているガトー。
寝ちまえばよっぽど話は楽なのに、そうしない二人のやりとりは、酷く生温いくせに何処かエロくさい。
・・・あーぁ。
「・・・」
眺めればガトーは珍しく料理のことも忘れて、自分の胸元に納まるコウに満足しているらしく、コウは文句を言いつつも、もうそれに抵抗していなかった。
・・・エロくさい。
「・・・そこはどうでもいいから、とりあえず飯食いてぇ・・・」
片手にはお玉を持ったまま、ガトーはコウの頭を撫で続けている。
「・・・ひどいな、あれは」
「ああ、ひどい。ありえねえ」
みれば、興味の無さそうだったシャアですら自分のベッドに半身を起こして、その光景を苦笑いしながら眺めている。
「無意識はある意味犯罪だな」
「それも凶悪犯罪だ。・・・あぁ、飯食いてぇ・・・」
「・・・や、君そこはもうちょっと我慢したまえね」
「うぇー・・・」
何故、と言われたらまんまるだったからとしか言いようがない。
まんまるだったから。
・・・コウの頭が、あまりにまんまるだったから。
「まんまる」を思う存分堪能したガトーが、傍観者たるシャアとアムロに夕食を提供するまで、あと数分。
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