2007/02/01 (メルフォお礼にて初出)

 ばらいろ小咄。『コスプレ』



 俺はオタクじゃない……と常々思っているのだが、それでも沸き上がってくる欲望を押さえられずにアムロはテレビの前で悶々としていた。何故テレビの前で? いや、それなりに理由はあるのだが、状況としてはいつも通りにお気に入りのゲームをずーっとやっている、まあそんなカンジだ。
「……駄目だ」
 アムロはついにコントローラーを置くと、下を向いて呟いた。
駄目だ、俺なんでこんなこと考え始めちゃったんだろうっ……!」
「……アムロ?」
 同じ部屋に居たシャアが訝し気に顔を上げた。ちなみに、ゲームに集中しているアムロに声をかけると恐ろしい事になる事を経験で知っているので、その声はあくまでも控えめだ。
「シャア! 俺、ドラッグストアに行ってくるから!!」
「……いや、まあそれくらい好きに行けばいいと思うけどね」
 シャアの返事を最後まで聞かずに、アムロは財布だけを持ってマンションを飛び出して行った……今日はごく普通の日曜日だったはずなんだが。
「何ごとだ」
 シャアは軽く首を捻ったものの、すぐに意識は手元の雑誌に戻る。テレビには、まだゲームの画面が写り続けていた。



 驚くほどあっという間にアムロは帰って来て、軽く息をついたままシャアの前に仁王立ちになる。
「……何ごとだ」
 さすがに尋常でないものを感じたシャアは、読みかけの雑誌を閉じた……と、驚いた事にアムロが急に目の前で土下座する。
「頼む、シャア! ……一生のお願いがあるんだ!」
「……」
 正直気持ち悪いと思った。
 一生のお願い? アムロが、自分に? 滅多な事ではベッドの中でも可愛らしくは到底ならないアムロが?
 ……しかも土下座?
「……聞くだけ聞こう」
 するとアムロは顔をガバっと上げて、何故かドラッグストアの紙袋からハードスプレー缶を三本取り出し、そしてテレビを指差してこう言ったのだった……、



「クラウドのコスプレやってくれ!」



「………」
 様々な思いが胸の奥から沸き上がった。……コスプレは知ってる、あれだ、コスチューム・プレイの略だな。クラウドも何となくは分かる、テレビの画面には未だPSPからD端子で繋がれたFF7CCの映像が流れ続けている。……自分は確かに金髪だ。スプレー缶が三本というのもまあ理解出来る。全部使い切って髪の毛を逆立てたら、確かにクラウドと似たような髪型になれるだろう。
 ……いやしかしちょっと待て。
「二十五歳にもなってコスプレなんてしたくな……」
「クラウドも二十一歳だって!」
「コスプレなんかしている暇があったら着たい洋服が他にたくさん……」
「いや、洋服大好きなアンタ的にはそうなんだろうけど絶対似合うって!」
「落ち着け、アムロ」
「本物の外国人がコスプレやったら絶対スゴいって! そう思ったら俺さあ、もう居ても立ってもいられなくなっちゃって……!」
 ……これは普通の断わり方では駄目だな。シャアはそう思って、しばし考えた、もっと効果的に……効果的にFF7のクラウドのコスプレを迫る恋人をなだめる方法は無いものだろうか……ああ、本当に世紀末的テーマだな、コレは。
「……分かった」
 よほど考えてから、シャアはそう言って頷いた。ぱああああっと、アムロの顔が晴れやかになる。
「ほんとか!?」
「ああ、分かった。君がそこまで言うのならクラウドとやらのコスプレをしようじゃないか。……ただし、一つ条件がある」
「条件?」
 シャアはアムロの目の前に、ポケットから取り出した自分の携帯を突き出した。
「クラウドのコスプレをやってやろう、ただし……」
 ここで一呼吸。アムロが息を飲む。



「……ガトーが一緒に『セフィロス』をやるならな」



 その日、その日曜ガトーはコウのマンションに居た。……と、そこへ携帯を鳴らすものが居る。見てみたらシャアだ。
「……お前に用事などないぞ」
 いくらなんでも酷いんじゃ無いかという台詞を吐きながら、ガトーは電話に出た。
「何? アムロか。なんだ、それなら何故自分の携帯で掛けてこない。携帯の意味が無いだろうが」
 わあ、説教してるよー、と思いながらコウはガトーを眺めていたのだが(たかが電話に出るだけだというのに妙に背筋が伸びている)、何故かガトーがこちらをチラリと見る。
「……何? 何だと? いや、分かった……少し待て」
 そう言うと、ガトーは寝転がって大学の課題を片付けて居たコウに声を掛けて来た。
「コウ」
「うん、何?」
「『セフィロス』……とは誰だ。簡潔に説明しろ」
 はあ? と思ったものの、コウは起き上がり、そして自分の部屋からアルティマニアを持ってくる。
「セフィロス……ってアムロが言ってるなら、多分このセフィロスのことじゃないのか? FF7の」
 コウが持って来たゲームの攻略本には、腰ほどまでの銀髪のキャラクターが一人写って居た。
「……」
 ガトーは電話を片手にしばらく考え込んでいた。
「……もう一つ、聞いてもいいか」
「どうぞ?」
 コウが首をかしげるとガトーが続ける。
「コスプレ、とは何だ」
「……アニメとかゲームのキャラクターの服装をして、楽しむこと、じゃないのか?」
「……」
 ガトーの眉間の皺が深くなる。



 アムロは思っていた。……どうか、ガトーがオッケーしてくれてシャアと二人でFF7コスプレしてくれますように!
 シャアは祈っていた。……どうか、ガトーが上手い言い逃れをしてくれますように!
 コウは言われて初めて思った。……ああ、セフィロスも銀髪だし、確かにガトーがセフィロスのコスプレしたら様になるだろうな……って、えっ、ガトーがコスプレ!?(気付くのが遅い。)
 ガトーは……非常に思慮深く、用心深く、一つの結論を導き出した。
「……アムロ、事情は良く分かった。そういうことならセフィロスとやらのコスプレをしてやろう……」
 ガトーは深い溜め息と共にこう続けた。



「……三年後に、髪が腰まで伸びたらな」



 無情にも切られた携帯を片手に、アムロは泣き崩れていた。
「絶対、似合うのに二人ともっ……!」
「や、期待に添えなくて実にすまないな」
 そう悪いとも思ってなさそうな口調でシャアが軽くそう言う。……っていうか、この三本も買って来てしまったハードスプレー缶、一体どうするんだ。



 さて、アムロ念願の『FF7コスプレ』を、シャアとガトーの二人が三年後にやってくれたのかはまた別の物語である。
 今回の事件で、ガトーは一つ日本文化の奥深さを知り、シャアは自分の恋人のマニアックさに気付き、コウはきっとガトーは何着てもかっこいいよね! なんて呑気に思った、



 これはそういう物語である。



    







2008/05/17




*もともとはメルフォのお礼小説でしたー(笑)。
それが妙にマニアックに受けて、またsayさんと遊んじゃうことに……。
sayさんいつもありがとう(笑)!ああたのしかった(笑)!
シャアとガトーのふたりがふびんでならないです!
実は私も『異様に体格の良いセフィロス』というガトさんのコスプレ絵を描いたのですが、絶対描いたのですが
なんかスパコミの原稿に紛れてどっかいっちゃった(笑)。見つかったらまた追加でアップしておきます……。
みなさまにも笑っていただけます事をいのりつつ(笑)!
sayさん、ほんとうにありがとうございました!!



ニセクラウド貰った後にねだって描いてもらったニセセフィロスはこちらだよ(笑)! ↓


ありがとうございました(笑)!ほんと正宗持ってたら文句言わないと思うよガトさん(笑)!



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