2007/07/11 日記にて初出

 ばらいろ小咄。『葉書』



 インターネット全盛のこの時代、一人暮らしの大学生に滅多にアナログな手紙など来るわけはなくて、だけど歴然とポストはそこにあって、だから大学から帰って来て義務感だけでそれを開いたアムロは一瞬動きを止めた。
「・・・・」



*近所に出来た建て売りマンションのモデルルームの案内(大学生がんなもん買うか、っつーの)。
*小洒落た美容室が開店したことを知らせるハガキ(俺は美容室で髪の毛切ったことなんて一度も無ぇ、コウはどうだか知らないけど)。
*見た事も聞いた事もない奇抜な宗教の勧誘(こういうの見ると世の中にヒマ人って多いんだなー、と思う)。



 ・・・そんなものにまみれてそのハガキはあった。ただの官製はがきだ。五十円の官製はがき。しかもそれには何も書いて無い。真っ白だったということだ。
「・・・・」
 アムロははがきをひっくり返して表書きを見る。すると、見慣れた文字が目に飛び込んで来た。・・・かなり下手な日本語の文字。自分の知る限り、こんな下手クソな日本語を『書く』人間は一人しか居ない。・・・何がしたいんだ、アイツは。
 さらによくハガキを見てみる。すると本来『差出人住所』』が書かれる場所に、見慣れぬ住所と、おそらくカフェの店名だろうか・・・それが書かれていることに気づいた。四条河原町○○通り上ル『***カフェ四条店』・・・っていうか、場所はともかく何時だよ。・・・何時なんだよ!
 三日ほど前に些細な喧嘩をしてから、アイツとは会っていなかった。当然口もきいていない。市内からなら確かにはがきは一日で届くが、こんなアナログな手段に出て来るとは予想外だった。
「・・・しょうがねぇなあ・・・」
 アムロは自分の部屋のドアを開こうとしていた手を止め、もう一度真っ白なはがきに目を落とした。・・・真っ白で、何も書かれていない長方形のそれ。
「・・・しょうがねぇなあ・・・しょうがねぇから行ってやるよ、それまで泣かずに待ってろよ・・・!」
 溜め息をつきながらはがきをバッグに押し込む。そして、走った。先ほど降りたばかりの近鉄京都線、竹田駅に。・・・説明しろよ。真っ白なはがきの意味を説明しろ、そして俺を、
 俺を愛してる、って言え。あと、喧嘩になったのは自分が悪かったせいだごめんなさい、って言え!



 ・・・数十分後、四条河原町のとあるカフェに息を切らして現れたアムロを見たとたん、シャアはラプサンスーチョンという極まれ(たぐいまれ)にみる苦いお茶を片手に微笑んだ。
「・・・やあ。・・・久しぶりだねアムロ、あのね。・・・あのね、君に対する想いを、手紙に綴ってみようと思ったんだが無理だった。・・・だってね、私は君が好き過ぎて、」
「・・・言葉に出来ない。」
 シャアが言うハズだった台詞の続きをアムロが言った。・・・あぁ、なんで喧嘩なんてしたんだろう、俺達。馬鹿だった、俺が馬鹿だった、シャアの顔を見た瞬間にアムロはそう思った。
「・・・ここね。・・・女の子を連れて来たことが一度も無いんだ。そういうとっておきの店なんだ。アムロの好きなウバのミルクティーがとても美味しいよ。」
「・・・それ、おごってくれるんだよな。」
 アムロは回りの人々に聞こえないように、一応低い声でそう確認する。
「・・・ああ、君が望むなら。・・・一生でも。」
 ・・・そう言って微笑むシャアの笑顔があの真っ白なはがきと同じくらい綺麗だと思ってしまった時点で、自分の人生なんか全然全く駄目だと気づいた。



 ・・・久しぶりに二人で飲む紅茶は本当に美味しかった。



 本当に俺の人生はダメダメだ。



    







2007/08/30





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