2006/03/03 日記にて初出

 ばらいろ小咄。『ブリカマ』


「・・・ブリカマを食ったのはだれた。」
 『素敵な奥さん』と書かれたエプロンをしたガトーがうなり声を上げながら台所から登場して、シャアとアムロの二人は顔を見合わせた。・・・二人はたった今留学生会館にたどりついたところだ。
「私ではない。」
「いや・・・俺でもないよ。」
 すると、あっという間にコウがしっぽを出した。
「俺も知らないよ!ブリカマの塩焼きなんか、全然知らない!!」
 すごい顔でガトーがコウを睨んだ。
「・・・塩焼きにしたのだな?」
「知らないってば!」
「・・・人が、きちんと四切れ用意しておいたブリカマを、ご丁寧に一切れだけ・・・」
「知らないってば!」
「・・・塩焼きにして、コッソリ食ったのだな!?」
 勘弁してよ、と思いながらアムロは『ハロ』の調子を見るために食卓から離れてガトーの机に向かう事にする。・・・夕食の準備には思ったより時間がかかりそうだったからだ。
「やれやれ。・・・コウくん、意地汚いな。」
「・・・ひどい!シャアさんまで・・・!!」
 コウはそれでもまだ、なんとか言い逃れしようとしていたのだが、烈火のごとく怒り狂ったガトーと、他の二人の批難の視線を浴びて考え直したようだった。
「・・・ごめんなさい、だって俺育ち盛りだから・・・」
「意味が分らん!」
 ガトーはかなり怒っていた。綿密に考え上げたメニューを大きな黒髪のネズミに妨害されてしまったのだから当たり前といえば当たり前だが、それにしたって、というほど怒っていた。
「貴様も食卓でなにをしている!」
 批難の矛先はシャアにまで向かった。
「私か!?私は関係ないだろう、メールを送っていただけ・・・」
「食卓で携帯などいじるな!・・・大体お前、あんなに日本語を書くのが下手のに、メールは送れるのか、メールは!」
 八つ当たりである。・・・ガトーは、失われたメニューをなんとか取り戻そうと、必死に考えているらしかった。
「いつものことながら失礼な男だな!メールくらい送れるとも!携帯も持っていない人間にそんなことは言われたく無いな!」
 なあ、コウくん!と、何故かシャアはコウに相づちを求めた。コウは、自分がブリカマを盗み食いしたことをガトーが忘れてくれるんじゃないかと思って、必死にうなづいた。
「そうそう!・・・シャアさんはメール出来るよ!ただ、シャアさんのメールは・・・・」
 あーあ、とアムロはパソコンを立ち上げながら思った。



「・・・・ぜんぶ『ひらがな』なんだ!」



 そんなことは言わなくていいんだよコウくん、えっそうですか?などと会話は続いていたが、ガトーの逆鱗は納まりそうになかった。
「・・・二人とも。」
「えっ、だからなんで私まで・・・・」
「・・・いいから、ふたりとも、さっさとスーパーに買い物に行ってこい!!嘆かわしい!どうしてこんなにもお前達の出来が悪いのか、私にはさっぱり理解出来ない!いいな、買ってくるのはブリカマ一切れだ!・・・いいな!」
 それだけ言うと『素敵な奥さん』は台所に戻っていってしまう。・・・いや、お母さんか?
「・・・はい、おつかれさんー。」
 アムロがパソコンの方を向いたままそう言って、コウとシャアの二人はしぶしぶ立ち上がった・・・しょうがないなあ、でも買ってこないと、今日の夕飯は・・・どうにも食べられないという話らしい!!





 『ブリカマを一切れ』買ってこなければならないところを、コウとシャアは当然のように『ブリを一尾』買って帰ってきて、ガトーの新たなる逆鱗に触れたのはまた別の話である。・・・アムロは「しばらくブリ料理だなあ」とうっすら思った。



    






2006/03/03







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