2003/08/02 お題:梓さん

 ばらいろ小咄。『不機嫌』

 アムロは良く「不機嫌そうに見える」と人に称されるのだけれども、実は不機嫌っていうより、ボーっとしてるだけなんだよな・・・とコウは思っていた。コウはそれを、長い時間かけて、アムロと仲良くなってゆくうちに徐々に知ったのだ、ええっと。・・・・そう、だからボーっとしていて、微妙にヤル気のない感じ、っていうのか?


 その日アムロとコウの二人は、珍しく買い物で四条河原町あたりに出て来ていた。こういうのは滅多に無い。コウは思った、何故かっていうと、俺は洋服なんかを見たくて毎日くらい四条に出て来てしまうんだけど、アムロったらあんまり出歩くのが好きでは無いから。
「・・・・ええっと、確かこっちこっち。」
「本当にあるのかよー、そんな店ー。」
「カイさんはあるって言ってたんだけどなあ・・・」
 もっとも、買い物と言ってもやっぱり洋服ではなくて(京都市で一番の繁華街だというのに!)実は、非常に細かくて専門的なパソコンのパーツまで売っている(しかも安い)店があるのだと、工学部の先輩に聞いて出て来ているワケだった。色気のない話である。ともかく二人は、細かい繁華街の小路をだらだら歩いていた。だらだら待ち合わせた土曜日の、だらだらした感じの午後のこと。
「・・・・・あ。」
 最初に気が付いたのはコウだった。・・・向こうから歩いてくる、うわ、アレは!!思わず、ギョっとして、すぐさま隣を歩くアムロを見た。
「・・・・・・・・・」
 しかし、アムロはと言ったら気付いているのか気付いていないのか、相変わらずそのままの歩調で歩き続ける。・・・・うわ、このままじゃすれ違っちゃうよ!!コウの方がよっぽどドキドキしてしまって、なんだかアヤシイ動きをしてしまった。
 狭い通りをその向こう側から、シャアが歩いて来たのだった。・・・・しかも女連れで。
「・・・・・あの、アムロ・・・・・」
「・・・・・え?」
 女連れってことはアレだ、デートだよ、デート!!そんな当たり前のことを考えて、コウは勝手に焦りまくる。・・・だって、ほら、最近知ったのだけれども、シャアさんとアムロは付き合ってるんだから!・・・男と女が付き合うみたいに、男同士なのに付き合ってるらしいんだから、これってほら、浮気じゃ無いか!!
「なんだよ。どうかしたのか、コウ?」
「え、あの・・・だからさ、その・・・・・」
 コウが一人でアヤシイ動きをしている間に、さっさとシャアと連れの女性は脇をすれ違って行ってしまう。・・・・アレ。コウは一人で頭を抱え込んだ。・・・・シャアさんも気付かなかったのかな。・・・・アレ。
「なんだよ、気持ち悪いなー、おいてくぞ?」
「え、だって、あの・・・・・」
 ・・・・・アムロも、やっぱ気が付かなかったのかな。・・・・アレ。

 ともかく、まあ何ごとも無かったんだからヨシとするか。・・・・そう気を取り直してもうしばらく歩いてゆくと、なるほど、カイ先輩が言った通りの、小さな店の看板が見えてきた、ああ、ここだここだ、意外に分かりやすかったなー・・・・・・・・・って、オイ。
「・・・・・・アムロ?」
 コウはもう一回焦った。・・・・・何故か、アムロが立ち止まらないのである。目的の、店の前に辿り着いたというのに!!いつも通りのボーっとした顔で、だらだらした歩調で、だけど何故か立ち止まらずに、店を通り過ぎて歩いて行ってしまう。
「・・・・・・アムロ?」
 コウはさっきより少し大きな声で呼び掛けた。・・・・しかしアムロは立ち止まらない。
「・・・・・・アムロ!!」
「・・・・・・え、」
 遂にコウは大声でそう呼んだ。・・・町中なので少し恥ずかしかったが。そこでやっとアムロが振り返った。
「・・・え、アレ。」
 その、振り返ったアムロの表情を見て、コウは少しビックリした。・・・え、って、それは俺の台詞。
 アムロは良く「不機嫌そうに見える」と人に称されるのだけれども、実は不機嫌っていうより、ボーっとしてるだけなんだよな・・・とコウは思っていた。コウはそれを、長い時間かけて、アムロと仲良くなってゆくうちに徐々に知ったのだ、ええっと。・・・・そう、だからボーっとしていて、微妙にヤル気のない感じ、っていうのか?
「・・・・・あの、アムロ。例の店って。・・・・ここだよ。どこまで行くんだよ。」
「・・・・あぁ。あー。・・・・あれれ。」
 そんなことをつぶやきながら、アムロは戻ってきた、まったくいつもの口調だ。そして肩をすくめつつ。・・・しかしコウは思った。・・・・ええっと。常日頃、いつでも不機嫌に見えているようなアムロだから、これは非常にわかりづらいんだけれども、
 ひょっとして今って、アムロはかなり本当に『不機嫌』なんじゃないのか。・・・・違うのか?
 ともかく二人で目的の店に入ろうとしている時に携帯メールの着信音が鳴った。・・・俺のじゃ無い。ってことは、アムロだ。案の定、コウの目の前でアムロがかばんから携帯を引っ張り出す。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 アムロは非常に無表情に、携帯に入ったメールを見ていた。・・・・・だから、彼を良く知らない人が見たら、『不機嫌』なのだろうか、と思いそうな表情で。・・・・それをしばらく眺め、それから、


 ・・・・見たこともないような表情で一瞬だけ笑った。


「・・・・・なんだって?」
 その笑顔を見た瞬間に、コウにはやっと確信した。それで、出来るだけ簡潔に聞いてみた。
「・・・・ああ、うん。・・・・フザケんなよ、バーカ、って感じのメールがさ。・・・シャアから。」
 そう言いながら、アムロはコウに自分の携帯を放ってよこす。コウはそれを覗き込んだ・・・・ああ。うん、だからさ。


『君、コウ君とデートをしているな?・・・一体、誰の許可があって、そんなことを!許さないぞ。』


 ・・・・だって、女の人とデートしてたのも、本当は怒られそうなのも、悪いのも、全部シャアさんじゃないか!・・・・コウは呆れて携帯を覗き込み続けた。・・・・それからゆっくりと、それをアムロに返した。
「・・・・・いいのか?」
「え、何が?」
「・・・・・だってさー、怒るのはアムロの方なんじゃ・・・・」
「・・・・・別に。」
 それだけ答えるとアムロは携帯をかばんにしまう。・・・・ふーん。そのままアムロは何ごとも無かった風で店の中を物色し始めた。そうだ、俺にも分かった。・・・・アムロが見たこともないような顔で笑うので、その直前まで『アムロが不機嫌であった』ということが、やっと。・・・・しかしアムロはさっきのメールで、あのメール一本で機嫌が直ったというのだ。・・・・・そうなんだ。・・・・・・分からないな。・・・分からないな。・・・・なんか遠い。
 分からないな、俺には、恋であるとか、愛であるとか、
 そのたった一言の、言葉の意味であるとか。




 意味であるとか。




 コウは軽く首をひねると、自分もパソコンのパーツを漁りはじめた・・・・どうしよう。なんだろうな。なんだろうな、これって、俺、なんだか。


 面白いことに、その日アムロと別れた後、自分の家にまっすぐ戻らず留学生会館のガトーの部屋に転がり込むと、ドアを開いた瞬間に、目の合ったガトーに「不機嫌そうだな」と言われた。・・・・ああそう?俺が不機嫌そう?・・・・そう?
 ・・・・おいてゆかれた気がしたのだ。・・・・アムロに。俺が長い時間をかけて知ったアムロの不機嫌を乗り越えて、たった一本のフザけたメールでアムロの機嫌を直したシャアさんに。
 よほどヒドい顔だったらしい、ガトーは無言で持っていたおたまの柄で(何故なら夕食を作りかけだったからだ、)コウの眉間を小突いた。
「・・・・って、なにするんだよー!」
「あぁ、少しは機嫌が直ったな?・・・・・・・・・・・・・・何があった。」
 ・・・・ああ、恋であるとか、愛であるとか。
 俺には全く分からないのだけれども、
 ・・・・・・・・それは。



 こんなにまでも。







 ・・・・・「友情」という感情を置き去りにしてゆくものなのですか。


   






■お題リクエストは梓さんです!■
・・・・っていうか、ギャア!
シャアとアムロで、ってお題だったのに超コウアム臭くなってしまいましたーーー(泣き笑い)!!
スイマセン。ええっと、後日シャアとアムロはそれでどういう会話をその後交わしたのか、っていう
お詫びみたいなオマケを上げる予定です・・・・・。←更に後日、別のお題でこの続きを書いたらどうかという話に予定変更(笑)。
梓さん、(この企画で初めましての方でらっしゃいましたね、)お題リク、本当にありがとうございました!
・・・・・ってことで、アヤシイ感じで企画スタートーー(笑)!←オイ。




2003/08/02




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