2003/11/21 お題:鳥籠さん

 ばらいろ小咄。『エンジェルリング』

 その日、お昼の待ち合わせ場所であった中庭でずいぶん長いことガトーとアムロは待っていたのだが、来なかった。・・・・誰が、というとコウが、である。何故か、「お昼」なんてことになったら一番に飛んで来そうなコウが来なかったのである。しかし、コウとガトーとアムロは三人でお昼を食べるのがほぼ日課となっていた。
「・・・・・ガトー。」
「なんだ。」
 時間だけが過ぎ、二人だけだと非常に時間を持て余す、ということに気付いたアムロは、ついに丸くなって煙草を地面に擦り付けるとこう言った。
「コウの、授業分かる? ・・・この時間の、直前、つまり火曜の二限に受けてるやつ。」
「情報学2、だ。・・・場所は知真館2号館、102教室。」
 即答だった。・・・・おぉー、さすが。アムロはどこか感動した。そこで、席を立つことにした。自分じゃ無い人間の受けてる授業なんて、俺は憶えちゃいねぇよ。
「俺、ちょっと見てくるよ。」
「あぁ。・・・・そうしてくれ。」



 結構肌寒い11月のことだった。



「・・・・・あり、」
 中庭にガトーを待機させたまま、知真館に向かって歩き出したアムロは、情報センターのあたりでシャアにばったり出くわした。
「おや。・・・なんだい、お昼じゃ無いのか。」
「あんたこそ。・・・・女とメシとか食わなくていーの。」
「や、予想外に予定が空いてしまい。」
「俺は、集合場所にコウが来ないから探してる。」
 予想外に、ってなんだ。ちょっと鼻にかかるなあーと思いつつ、アムロが歩き続けようとするとシャアがついてくる。・・・・なんだよ。
「じゃ、私もいこう。」
「・・・・素直に『今日は一緒にお昼が食べたい』とか言ったら?」
「言って欲しいのか?」
「そうじゃなくってさ・・・・」
 あー、ラチがあかねぇ。そう思ったアムロは会話を切り上げ、シャア付きでコウ探索の旅に出ることにした。一応、電話もかけてみたのだが返事が無い。コウは何をやってるんだ?
「・・・手がかりは?」
 面白そうに、そう、シャアが言う。
「・・・前の授業の教室。・・・なんだよ、邪魔するなよな!」
「しない。」
 二人は昼休みで、人出の多い大学内の通りを、知真2号館に向かって進んだ。



「・・・・・・・あーあ。」
 知真2号館、102教室でアムロとシャアの二人を出迎えたのは、実にありがちな光景だった。・・・・なんのことはない。
「・・・・・・・熟睡してるな、こりゃ。」
 コウは、その前の授業の教室で、机につっぷしたまま眠っていたのである・・・・窓際の席。十一月。小春日和。ぽかぽかと日の当たる場所。
「・・・・・コウくーん。・・・・ってくらいじゃ、起きないか、君、電話もかけたのだよな?」
「かけた。でも返事なかった、ってことは超寝てる、ってこと・・・・」
 アムロとシャアのふたりはそうひそひそと話ながら眠るコウに近付いた。
「・・・ガトーに連絡しなきゃ。・・・・いや。でもガトー携帯持ってない。・・・・コウを起こした方がいいかな?」
 アムロがそう言うと、シャアが少し眉根を寄せた。
「ええー、こんなにもよく寝ているものを、かい!!・・・君、そりゃちょっと不粋じゃないか。」
 シャアがそう言うのでアムロは躊躇した。・・・しかしなあ。このままだと、永遠にメシ食えねぇじゃん・・・。



 そこで、ふと気付いた。



 気付いてしまったからには、思わず行動に出てみる。アムロは手を延ばすと、眠っているコウの髪に触れた。
「・・・・・うわー。」
 次の瞬間には思いきり指を差し入れてしまっていた。・・・・すげえ!見た目も凄いけど、コウの頭って、髪の毛って・・・・ほんとに『さらさら』だ!!
「・・・・・君、何をやっている・・・・」
 眠りながらも、コウが少し身じろぎするので、心配になったシャアはそうツッコんだ。
「・・・だって!シャア、凄いぞ、コウのあたま!!・・・・気持ちいいくらいサラサラ・・・!」
「あのだね。」
 シャアはちょっと呆れたらしく、コウの頭を撫でるアムロをしばらく見ていた。この二人が妙にスキンシップ過多なのは知っている。・・・そりゃ、外国人が見たら呆れるくらい仲が良かった。
「俺、コウのあたま思いっきり触ってみたかったんだ、今日初めてだー。」
 しかし、そんなことをアムロが言うのでシャアは驚く。
「・・・・なに?今まで触ったことは無かったのか?」
「ないない。こんなに思いっきりはない。」
 コウの髪の毛に指を入れ、そしてそれを梳き続けながらアムロは続けた。
「ほら、俺の頭ってもじゃもじゃだろ!」
「まあ、もじゃもじゃとも言うな・・・・」
「あと、アンタのあたまもちょっとクセっ毛だろ。」
「・・・・君とコウくんの中間くらいじゃないかい?・・・少し癖がついているのは、セットする時に楽なんだよ。」
 そんな会話を交わしつつも、アムロはおもしろそうにコウの頭を撫で続けていた。・・・・しかし、コウの目覚める気配はない。
「・・・・シャアもちょっと触ってみろよ。・・・・本物のストレート。・・・サラサラ。」
「・・・・・・」
 シャアは随分考え込んだのだが、遂に手を延ばしてみることにした。・・・・さら。あぁ、細いな。・・・さらさら。うん、細くてとても素直な真っ黒の髪が、手のひらに・・・・・



「・・・・・何をしている。」



 その時、非常に凍り付いた声が教室の入り口からして、アムロとシャアは飛び上がった。
「・・・・あっれ、ガトー。」
「やあ、ガトー。・・・・いや、私はさっきアムロと会ったんでここにいるのだけどね。」
 それは、本来の待ち合わせ場所の中庭で、待っているはずのガトーの声だった。・・・ガトーは、待っていても無意味だ、と早々に判断したらしい。そこで、自分も知真2号館に向かって来たのだった。
「・・・・いや、だからね。・・・・・コウったら、寝てたんだ。ほら。それで、お昼の待ち合わせ場所にこ来なかったんだ。」
 アムロはどうしようもないので、眠っているコウをガトーに見せた。・・・・うぅん。時々みじろぎはするものの、コウは本当によく眠っているらしく、あたまに天使の輪を作りながら、日のあたる窓際で目覚める気配もない。
「・・・・そうか。では起こせばよいだけの話だろう。」
 ・・・・怒ってる!!何故だか分からないけど、ガトーが怒ってる!!アムロとシャアの二人は、何故か眠るコウの両脇で焦った。
「あの、だからこれはだな・・・・」
 ・・・・さわって悪かった、というのもマヌケな返事である。大体、触られているのはコウだ、ガトーじゃない。コウは、別にガトーのものじゃない。・・・シャアは言葉を選びつつ、こう言った。
「・・・・君も、触ってみたら?・・・・・コウくんの髪。・・・・・気持ち良いくらいサラサラだよ。」
 ガトーは、非常に難しい顔でアムロとシャアの二人を、それから眠るコウを見た。・・・・・さらさら。たしかに、とても気持ちの良さそうな髪の毛に思えた。日のあたる場所、日射しに輪を作るその髪。・・・・さらさら。何か決意を固めたようにガトーが苦い顔のまま足を一歩前に出した、そして身をかがめて、指先が少しコウの頭に触れそうになった、その瞬間・・・・



「・・・・・・・・わー!今何時!!」



 ・・・・コウが飛び起きた。起きたばかりのせいなのか、腫れぼったくてやけに赤い顔をしている。・・・あれ。そこで、アムロは何かに気付きかけた。・・・・赤い顔。・・・・・あれ。・・・・あれ、ひょっとして・・・・。
「・・・・・何を寝ている、昼飯を一緒に食べるのでは無かったのか!」
 ガトーは、あっという間に体制を立て直した。今まさに、髪に触れようとしていた気配を微塵とも感じさせずに、コウに向かって怒鳴りつける。
「ええっ!・・・・そう!そうです、なんだよ!!俺寝ちゃってたの、起こしてよ、みんな・・・!!お昼食べる時間、まだある???」
 ・・・お昼を食べる時間は、3限にすこし遅刻してもよければ、四人共に、まだ立派にありそうだった。・・・そこで、四人はそうすることにした。・・・・あれ、ひょっとして、途中からコウは目が覚めていたのかな。・・・でも、勝手にさらさらの頭に触らせてくれていたのかな。・・・・・・・・・・なんでガトーは触っちゃダメだったのかな。・・・・ガトーだけ。・・・・ガトーだけが、勝手に触っちゃ。



 アムロは、その疑問を腹のそこにおさめて、だけどそんな程度じゃ空腹がおさまるわけも無いので、昼食に向かうことにした。・・・・トクベツって、すごいよな。安易に触れられたくない程のトクベツ、って。その方がいつもいちゃいちゃしている俺らよりすごいよな。・・・・そんなことを少し思った。

   






■お題リクエストは鳥籠さんです!■
・・・・やっと動き出したー(笑)、結局漫画と平行してではムリだった、この企画(笑)!!
すいません。これからめっちゃ頑張りますよー、小咄ー・・・って、好き勝手やっていいと、けっこうほんとに
好き勝手だわ(涙)。暴走してたら止めてね、みなさま・・・そして鳥籠さん。エンジェルリングはこんなもので
よいのでしょーか???<みんながコウの頭をなでなで小説、と言えないこともない・・・(笑)。
・・・・とりあえず逃げよう(笑)!!




2003/11/20




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