2002/08/29 初出

 ばらいろ小咄。『オースティン・パワーズ』


 ・・・・五月!それは、心陽気な季節、バカが大量に巷(ちまた)に溢れる季節!!
「・・・・・・汚ねぇなぁ。」
「・・・・・・ああ、こう言ってよければ汚いな。」
「そうか?・・・・私はもう慣れたが。」
「・・・・・・ってアンタが言うなよ、シャア!・・・・・・ここは俺んちだーーー!!」
 アムロの叫び声が新緑に響き渡る五月!今日、珍しく四人の友人達・・・・つまり日本人学生が二人と、それぞれに友人のフランス人留学生が二人・・・・は、竹田にあるアムロのワンルーム・マンションに転がり込んでいた。これは珍しいことである。・・・だって単純に大学生用のワンルーム・マンションなんて男四人が転がり込むのには狭いこと極まりないから!!
「さあ!俺の部屋の汚さはこの際置いておいて。・・・・・そこっ!コウが逃げないようにきちんと見張る!」
「ラジャー!」
 と、部屋を辛うじて片付けている隙に、そこからそーっと出てゆこうとしたコウに気がついて、ゴミの入ったコンビニの袋を部屋の片隅に蹴り飛ばしていたアムロが急にそう叫ぶ。もちろん、近くにいたシャアがコウにタックルをかけると、その足を止めた。
「・・・・・って!俺イヤだってば、だからみんなだけで見ればいいじゃないかぁ!」
「男らしくないな!こうなったからには最後まで見ろ!」
「そうだ、二本もあるぞ。」
 さて、放課後この部屋に寄り集まった四人は、悶々とアダルトビデオを見よう、とかそんなことを考えていたわけではなかった。彼等は、ごく普通に大学からの帰り道にレンタルビデオ屋に寄って、これから映画を見ようとしていたのだ。
「場所確保・・・・・オッケー!シャア、コウが逃げないように捕まえてろよ、俺じゃ押さえられないから。」
「私はこの部屋の掃除をしてもいいか・・・・・」
 アムロはそういうガトーには適当に手を振っておいて、これまた一人暮らし特有の小さなテレビデオにテープをつっこむと、再生ボタンを押した。うん、確かにガトーが見たら実に掃除をしたくなる部屋なのかもしれないねぇ、この部屋。ま、慣れてるからいいんだけど。
「いやだあああああ!」
 コウの叫び声と、それから陽気な音楽と共に映画が始まる。タイトルは・・・・・『オースティン・パワーズ』であった。




 つまるところ、こういう話だったのだ。
「・・・・な、最近映画とか見たか?」
「えー・・・・なんか見たかな。」
 いつも通り、授業の終わったあと何となく集合してしまった四人は、爽やかな風の吹き渡る大学の前庭で、これまたなんとなく映画の話になった。今日は、ガトーとコウの剣道部二人組も部活が休みだということで、このあと間違い無く食事を一緒にするんだろうな、というそれはまったくいつも通りの午後だった。
「そういや、オースティン・パワーズの新作がこの夏、公開だな。」
 と、シャアがニヤニヤ笑いながらそんな事を言う。・・・・あぁ!アムロは思った、実にアンタ好きそうだよね、あーゆーバカっぽくて更に下ネタ満載のコメディとかっ!
「ああ。そういえばそうだな、今度のオースティン・ガールはビヨンセらしいが・・・・元ネタの007の方も結構好きだったな。」
 と、驚いた事にガトーまで、その話題に乗ってきた。えっ。・・・・ちょっと驚いたけど、あれだけバカを極めてるとガトーも認めざるを得ない、ってことなのか?(それこそそんなバカな。)・・・・と、そこでアムロは気がついたのだが、何故か一人だけコウが難しい顔をしているのだった。
「・・・コウ君?」
 と、それにシャアも気付いたようで声をかける。すると、コウは顔を上げて「え、俺?」というような表情をした。
「・・・・・いや、え?『オースティン・パワーズ』、知ってるしすごく面白いコメディだと思うんだけど・・・・・」
「・・・・けど?」
 何故コウは顔をしかめているんだろう。他の三人の誰もがそう思い、思わず沈黙する。すると、コウはちょっと戸惑ってからなんと、こう言ったのだった。




「・・・・・あれ、下品じゃんか。」




 次の瞬間、激しい沈黙の後に、他の三人はコウに飛びかかったのだった。・・・・・・『下品』!それが『売り』の映画に向かってこの男は、今なんと言った!年は幾つだ!下ネタがなくて何処がオースティン・パワーズ!!
「・・・・・今日の予定は決まったな!」
「ああ、決まった!」
「オースティン・パワーズ観賞会だ!!」
 うわああああ、と謎の叫び声を上げるコウを逃がさないようにして、だんごになった学生達が四人、凄まじいイキオイで大学前の坂を下ってゆく。
「一番近い家は!」
「俺んち!」
 アムロももちろん思っていた。・・・・・面白い!コウったら、なんでこんな面白い性格なんだ!
「え、やだぞ何で・・・・??!・・・・俺食事とかの方がいい!」
「何を言う、君、下品を見たまえ!」
「そうだ、そして下品を笑え!」
「ぇえええええ!?」
 他の三人はもうひたすら、見たくなったのであった・・・・・オースティン・パワーズを、ではない。・・・・・・オースティン・パワーズを見ているコウを、である!
「いいから見ろ!」
「嫌だぁ!」
「そして、世の中にはこんなにも○○○を表現する言葉があるのかと・・・・」
「英語の奥深さに酔いしれろ!」
「嫌だ!」
「いいから見ろ、絶対俺達が面白いから!
「なんか良く分からないけどホントにいやだあああああああああ!!」




 ・・・・五月!それは、心陽気な季節、バカが大量に巷(ちまた)に溢れる季節!!




 もちろん、コウは赤くなったり青くなったりしながら、強制的に『オースティン・パワーズ』を見せられた。イチモツの呼び名が二十もの表現で語られるその映画を、である。その、めくるめくお下品な世界を!彼がどんな気分になったかは、もちろんコウにしか分からない。しかし、他の三人は非常に満足し、ガトーにいたっては二本の映画が再生される間にアムロの家の片づけまで出来たので非常に心サワヤカだった。




 ・・・・・そういう素敵に、大学生らしい夜だった。




『新作のオースティン?・・・もちろん見に行くよ!だって、ブリトニー・スピアーズが出るからね!』
シャア・アズナブル 談

   









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