2002/02/20 初出

 ばらいろ小咄。『ワンピース』

 部屋の隅でジャンプを読んでいたアムロが急に「あ!」と声を上げるので、深夜番組を見ていたシャアは何ごとだろうと思って顔を向けた。見ると、アムロは実に驚いた顔で、ジャンプを食い入るように見つめている。
「なんだ。」
「・・・・・このジャンプ、俺、先週読んだわ・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 シャアはしばらく考え込んでいたが、結局溜め息をつきながら教えてやった。
「気のせいじゃ無かったら、アムロ。・・・・・・君は先々週も先先々週も、同じ週刊ジャンプを読んでいた。・・・・・その表紙は見飽きた。」
「えー、そうだっけかぁ・・・・・これ、何処で拾って来たんだろうなあ・・・・・まあどうでもいいや、ジャンプはジャンプだしな。」
 ここで沈黙。部屋にはアヤシイ吹き替えの海外通販番組の音声だけが流れ、二人は明後日の方向を互いに向いたまましばらく会話を交わさなかったが、やがてアムロがまた言った。
「・・・・・なあ。ナミとビビどっちがイイ?」
「ビビ。」
 シャアが即答する。すると、アムロが信じられない!という声をあげた。
「えー・・・・えー、俺ナミなんだけど・・・・なんでシャアビビなんだよ・・・・つーかあんた、ワンピース読んだことあんの?」
「それなりに。」
 まだテレビの画面に目をやったまま、シャアがそう答える。
「・・・・・主に、漢字以外を読んでいる。」
「・・・・・・それ、ちなみにストーリー分かるのか?」
「だから、それなりに。」
「なるほど。」
 ここでまた沈黙。すると今度は、シャアが煙草に火を付けながら思い付いたようにこう言った。
「・・・・それじゃあさ。コウ君に聞いてみたらどうだ。『ナミ』派か『ビビ』派か。多数決の結論が出るぞ。」
「あ、それいいね。」
 アムロも答える。そして、何週間も前の週刊ジャンプを放り出すと、ベットの脇に転がっていたカバンから携帯を取り出した。ちなみに、時間は午前一時。・・・・・まあいいや、多分起きてるだろう。
『・・・・・・・なぁーーーーにぃーーーーーー・・・・・・』
 しかし、アムロとシャアの予想に反して、コウは寝ていた。とてつもなく眠そうな声が、電話の向こうから響いてくる。
「あー・・・・コウ。悪ぃ、起こしたか。それでさ、用件は簡単なんだ。ナミとビビ、どっちがいい?」
 すると、電話の向こうでコウが長らく沈黙する。・・・・・あまりにずっとコウが話さないので、アムロは一瞬コウがまた寝てしまったのかと思った。しかし、やっと答えが帰ってくる。
『・・・・・・俺、ゾロがいいなぁーーー・・・・・俺、ゾロみたいに強くなりたいなあ、この間部活動の時『三刀流〜』ってやったら、ガトーに殴られ・・・・いてっ!』
 そこでどうやら、コウはまたガトーに殴られたらしい。この遅い時間に貴様はなにをやっている、などというガトーの声が、電話の向こうから聞こえて来たので、アムロはシャアに言った。
「・・・・・・・コウは、ゾロがいいってさ。」
「・・・・・って、君。それは、質問の意味が分かって無いんじゃ・・・・」
「うん。多分。」
 そこで、あ−悪かったな、起こして・・・・などと適当にお茶を濁して、アムロは電話を切ることにする。アムロのワンルームマンションには、また沈黙が訪れた。
「・・・・・よし、テーマを変えよう。ワンピースのキャラなら、何をやりたい?」
 シャアがそう言ったので、アムロはしばらく首をひねってから・・・・こう答えた。
「やっぱ・・・・ルフィ?主役だし。」
「私はサンジがいいなー。」
 そのシャアの意見には、アムロは大反対だった。
「ええ!!??だって、サンジは料理人だろ!料理人っつったらガトーだろ!」
「バカを言いたまえ、君、だって女好きだよサンジは。」
 どんどん会話の主旨が妙な方向に流れて行っていることに、もはやアムロもシャアも気付いていない。
「それじゃあさ・・・・・そうだな、コウ君は是非ゾロになりたい様だから、ならせてやるとしよう。君がどうしてもゴムゴム言いたいのなら、君がルフィだ。で、私はサンジ。・・・・・となるとだ。どうするんだ、ガトーは。」
「・・・・・・・・ウソップじゃねーよな・・・・・」
「トナカイでもないな。・・・・いや、名前を忘れてしまったんだが。」
 そこで、シャアとアムロの二人は顔を見合わせてまた沈黙する。




「・・・・・・・・・・・・・・それじゃ、この際ガトーがナミ、ってことで。」




 こうしてめでたく、『第一回:ワンピースのキャラをやれるなら誰がやりたいか!?大会』は終了した。もちろん次の日大学で、シャアとアムロの二人は「おめでとう!君がナミだ!」とガトーに教えてやったが、ワンピースはおろか漫画本の一冊たりとも読んだことのないガトーが、気難しそうに眉根を寄せたのは言うまでも無い。コウに至っては、「頭がいいし美人だから似合って無いかな・・・」などと血迷った発言をして、シャアとアムロを青ざめさせ、ガトーにはまた殴られていた。









 ・・・・・・・大学生のヒマつぶしの無駄っぱなしなんてのは、所詮こんなもんである。

   




ワンピースファンの方ごめんなさい。
ワンピース知らない方もごめんなさい。
・・・・あ、ガトーさんファンの方もごめんなさい・・・・(笑)。←なんだそのおまけっぽいの(笑)。


ところで、このお話にはすっごい頂き物を鳥籠さんに頂いてしまったんですよ(笑)!
みなさまどーか御覧クダサイ(笑)!!!本当にありがとうございます、鳥籠さん!
2002.02.22. こーらぶ




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