「……焦ってるんですよ」
「何を」
どちらかと言うと気の良い人間である整備班班長に通路でばったり出くわすと、彼が中々に深刻な顔でそう打ち明けて来たのでブライトは立ち止まった。
「アムロ大尉のことです」
「場所を移した方がいいか?」
しかも話の内容が旗艦の作戦士官に関する事とあっては聞き捨てならない。ブライトがそういうと、アストナージは軽く首を振った。
「いや、ここでいいですよ。俺が心配しているのはね……ケーラの事なんです」
「……」
話が見えなくなってきた。アムロの話では無かったのだろうか。
「待て、それで結局どちらの話だ」
「両方ですよ。つまり、大尉が気が多すぎるのが問題なんです。事ある毎にケーラに声をかけるんですよ! 美人だね、とか可愛いね、とか食事でもどう、とか」
「……」
ブライトは非常に続きを聞きたくない気分に陥ったのだが、無下にするわけには行くまい。そこで、アストナージを通路の端にあるドリンクコーナーに誘った。
「……それは社交辞令というものだろう」
「艦長はそんなこと言わないじないですか」
「……では性格の問題だ。大体アムロにはベルトーチカが居るだろう?」
「地球じないですか!」
バカらしい事この上ないとブライトは思うのだが、アストナージにとっては深刻な問題であるらしい。
「分かった、では私からそれとなく言ておくので……」
ブライトがコーヒーの容器を握りつぶしながらため息をつくと、何故かアストナージが首を振った。
「いいえ艦長! 俺に、良いアイデアがあるんです」
「……何だ」
オレンジジュースを手に持ったアストナージはやや興奮気味でブライトに詰め寄る。
「今度、専用機を作るでしょう?」
「アムロのか? ああ、そういう話になっているな」
「それに合わせて、整備要員を補充して欲しいんですよ! もちろん可愛い女性の整備員です。ケーラとは全く違うタイプにして下さいね。黒髪とかどうだろう? 制服も思いきってミニスカートとかで! で、その子に専用機の『専用技術士官』になって貰うんです。良いアイデアでしょう!」
「……」
ブライトは頭痛がしてきた。……どうするかな。
「艦長! 頼みますよ、俺はもう心配で心配で……」
即答は躊躇われた。口約束をしてしまうと後でアストナジにどれだけ恨まれるか分からない。
「……わ、」
結局ブライトが了解の返事をしかけたときに通路の向こうから、件のアムロがひょいっと顔を出した。
「艦長。……なんだアストナージもこんなところにいたのか」
「うわ!」
「出た!」
「……何だよ」
そう言われてアムロも訝しげな表情になる。
「……いや、何でも無い。アストナージ、その件は熟考しておく。……それでアムロ、何の用だ」
怪しいなあ……という顔をアムロはしていたが、アストナジはそそくさと頭を下げて逃げて行く。
「専用機の件だ。アナハイムの方からプロジクトチム立ち上げの連絡が来た。今からミーティングは出来るか?」
「分かった……時にアムロ」
二人は通路を移動し始めた
「何だ」
「……黒髪にミニスカートの技術士官、なんてのはどうだ」
「……? そりゃ……顔によるかな」
「そうか」
アストナージの陰謀が功を奏し、ラー・カイラムに新しい技術士官がやってくるのはもう少し先の話である。
2009.05.12.
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