+ 野蛮なるかな +





凪ぎの海も
赤く渦巻く風も
稜線の向こうに沈む夕陽も。





月の人工都市ニューアントワープで生まれ育ったニナ・パープルトンにとって
地球の自然は何もかもが目新しく興味深いものだった。

地球に生まれた人間、
そう、たとえばコウ・ウラキにはあたりまえに思える景色にも
いちいち感動してしまう。



野生のまま走り回っている動物たち。
暑すぎる気温。
からからに乾いた大地。

今は、トリントン基地からガンダム試作2号機を奪って逃げた
ジオンの残党を追いかけているのだとしても、
索敵中にニナの出番はほとんどない。

だから現状を大変だと思う気持ちを持ちつつも
この圧倒的な自然を前にしては興味を免れない。



月の人工都市というのは、
コロニーよりもっと人工的な空間だ。

コロニーには太陽光がある。
雨や雲を発生させて幾ばくかの季節も演出している。

しかし月は完全な地下都市で
味気ない朝と昼と夜があるだけ。



(こんな処に生まれたらどんな風に育っていくのかしら。)

そんな目で、ウラキ少尉を見てしまう。



ガンダム試作1号機に乗りたいがために
無断で決闘をしたウラキ少尉と
それを誘ったモンシア中尉。

二人ともこの地球で生まれ育ったと聞く。



(感情のおもむくままに?)

(やりたいことを?)



・・・わからない。

計算できないことは苦手。

それは私が人工都市で育ったから?



・・・いえ、

(あの人に捨てられたから。)

身構えるようになってしまった。

イヤな思い出。





凪ぎの海も
赤く渦巻く風も
稜線の向こうに沈む夕陽も、
すべて計算とは無縁な光景。



これ以上、何かが起こる前に

(帰るべきなのかしら。)



・・・・・・・・・未知数の自然がありすぎて、
その答えもまたニナには計算できない。



(知らなかったらそれで良かったのに。)

もう知ってしまった。
本物が持つ力を。



(・・・惹かれていく。)



彼に。



(ダメ。考えたくない。)



見ていよう。まだ。

この野蛮なる、景色だけを。














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