入社後初めての合コンで、押しの一手で攻めてきた男と付き合ってみたけれど、一週間で別れた。本当は二日目でこの人はダメって思ったんだけど、ただの同僚として顔を合わすことがあるだろうから、波風が立たないように待った。



 (やっぱり恋より仕事よね・・・うん。)

 正直、仕事は面白かったし、まだまだ勉強しなくてはならなかったし、男と付き合うより有意義よねって思ってた。・・・そんなわけでしばらく合コンの誘いは断ってたんだけど、メンツにドタキャンが出たからどうしてもって、ポーラに頼まれて、しかも相手は元エース級のジオンのパイロットだってゆうし、・・・・・・・・・負けたくせに、女と遊んでるなんてどういうつもり?顔ぐらい見てもいいかって出ることに決め、私は鏡を見ながら口紅を塗り直した。



 ・・・・・・・・・0080年の終わりのことだった。















彼女の嫌いな彼女















 金曜日の夜六時。カジュアルなフレンチレストランで、男と女が5人ずつ。ちょっと遅れて着いた私は、ポーラの隣に座る。



 「おっそーい。来ないかと思ってドキドキしちゃった。」

 「ごめんね。ちょっと出かけに電話が入っちゃって。」

 ・・・なんて言うけどウソ。あなたに頼まれたから、ほんとはイヤだけど出席してるのっていうポーズ。それから、私の目の前の人の片腕が無いことに気づいて、内心ちょっと驚いた。

 (エースパイロットって、・・・なんだか本当みたい。)

 今は戦後だし、月には元軍人なんて、溢れるぐらいにいるけれど、腕が無い人を間近で見るのは初めてだった。みんなもちらちら見てる。結局それだけ私たちが甘々のお嬢様ってことなのだろう。アナハイム・エレクトロニクスのある階層は、それなりの富裕層の居住区であり、片腕どころか両腕が無くても、立派な義肢が本物同様に付いていて、それと気づくことがなかった。片腕を片腕のままにしてるのは、下の階層のジャンク屋がある辺りに住む人間とかで。



 「・・・ケリィだ。」

 簡単な自己紹介が、端の席から男女交互に進んでいき、片腕の男はそう名乗った。・・・ふーん。そう。



 「ア・・・アナベルです。」

 右端に座っていた最後の男がそう名乗った。よく知られてるかもしれない、ガトーという名前を使わないようにしたのだと思う。さらさらの長い銀髪を無造作に肩に降ろし、着ているものといえば、きちんとプレスされた白いシャツに、黒いジーパンなんだけど、やたら目立っていた。・・・だって顔立ちが、超売れっ子の映画俳優も顔負けっていうか、・・・それよりかっこいい!

 だけど、もう少し笑ったらどう?・・・・・・・・・アナハイムでも粒よりの美人が5人も揃ってるのに、アナベルとケリィったらすごい仏頂面。眉間に皺まで。・・・あとで聞いたのだが、左腕を失ったをケリィを励ますために、アナベルがケリィを無理矢理連れてきたらしいが、そのアナベルも、何か楽しいことはないか?と別の人間に聞いたところが、この企画になったようで、やたらバツが悪そうだった。・・・・・・・・・本当にエースパイロットでしかもその顔なら、もてもてだと思うんだけど・・・。遊びには慣れてないみたいね。



 「・・・・・・・・・趣味は仕事で、好きな花は白い蘭なの。」

 女性陣の最後は彼女?・・・ちょっと意外。私と同じに、恋より仕事っていうタイプだったのに。それからみんなで乾杯して、食事が始まった。ワインも回ったところで、(ショートで眼鏡の)ビビがいきなり、

 「その腕はやっぱり戦争のせい?」

 (ちょっと!初対面でそんなこと聞くもんじゃないわよ!!)

 私は心の中で叫んだ。



 「・・・・・・・・・そうだが。」

 「やっぱり痛かった?」

 (痛いに決まってるでしょ!)

 「それが、あまりその時の記憶が無いんだ・・・。」

 「そうなの・・・。」

 シーンとする場。もうなにやってんのよ!何か言わなきゃ・・・。そうだ、あっちのアナベルっていう人・・・、

 「あなたの名前って、かわいらしいわね。」

 「・・・・・・・・・そうか(むす)。」

 もっとシーン、みたいな。・・・ああ、だめ。やっぱり私にはこんなの向いてないかも。



 「きっと生まれた時、女の子みたいにかわいかったのよ。それとも間違えてつけたとか。」

 ・・・彼女がフォロー?ちょっとびっくり。

 「いくらなんでもそれはないだろう(くす)。」

 あっ!いま笑ったわ。・・・笑えるんだ。彼女のおかげっていうのが悔しいけど。・・・・・・・・・なんとかその場を乗り越えて、二時間余りの会食が終わりに近づいた頃、化粧直しのために、私は席を立った。・・・・・・・・・会計の時には、席を外しておくのがマナーだもの。彼女も私に続いたようで、化粧室の鏡の前に二人が並んだ。鏡に写る互いの姿に向かって、話をする。


 「みんな、アナベル狙いって感じだったわねー。」

 「あんな人、どこがいいの?見かけだけじゃない。」

 (おや?)と私は思った。花嫁修行の履歴書に一行を加えるために働いてる子がいるようなこの会社で、恋以外の話ができる相手として貴重な彼女は、やっぱり外面だでけでは、なびいたりしないか・・・。



 「じゃ、今日はハズレ?」

 「・・・さ、どうかな。」

 思わせぶりに私にウィンクして、彼女が先にそこを出た。ふんわり揺れる髪が、フローラルの香りを残していった。















 翌々日の日曜日、私はぶらり街へとショッピングに出た。とくに目的があったわけじゃなく、カフェでお茶したり、ファッションビルを出たり入ったり、別に女友達と一緒じゃなくても街ぐらい歩ける。



 「あっ?」

 私は小さく声をあげた。あの人だ。アナベル。・・・そうアナベルよ。ちょうど本屋から出てきたところで、今日は銀髪を後ろでひとつくくりにしていた。細いブルーのストライプのシャツにジーパン。ふつーの格好なのに、長い手足でモデルみたいな雰囲気。

 (声をかけてみようかな・・・。)

 気になってないわけじゃい。だけど、恋より仕事って思ってたから、ちょっと尻ごみしてテレフォンナンバーを聞けなかった。



 「ああっ?」

 今度は、本気で声をあげた。彼女だ。買ったばかりのような包みを小脇に、アナベルに追いつく。・・・どうして?・・・なんで?

 (興味が無いってフリをして・・・)

 ちゃっかりアタックしてたってことよね。・・・そう、・・・・・・・・・そうだったの。



 だけどそれで女として正解なんだと思う。・・・・・・・・・私にはできない。



 「・・・やったわね、ニナ。」



 アナベルとニナが雑踏に消えていくまで、ルセットは二人の後ろ姿を見続けていた・・・・・・・・・。










 ルセット・オデビーは、恋より仕事のため、なのかどうかわからないが、その後、さらなるキャリアアップのために、ラビラン・ローズへ転勤していった。




















 彼女の設計したガンダム試作3号機GP-03デンドロビウムが、アナベル・ガトーの駆るノイエジールと戦うことになるのは、宇宙世紀0083年11月12日のことである。















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