ベッドにて・・・
茨の園という名の基地は、寄せ集めの素材で作り上げられた非恒久的な基地であった。ジオン軍「残党」の力をもってして維持できる規模がその程度であったと同時に、恒久的な基地にしたくないという思いもあって、このような簡素な作りとなっていた。
そう、この基地はあくまで仮のものであり、いつかジオン公国を取り戻すまでの、一時的な港であれとの願いが込められていたのである。
アナベル・ガトー少佐の母艦ペール・ギュントは、いま茨の園に係留されていた。いつもなら係留中でもガトーはペール・ギュント内で過ごすことが多いのだが、茨の園の中にも与えられた自室があった。士官に相応しく・・・とは言い難いが、個室であるだけましであろう。シャワー室も隣接しているし、圧迫感を感じない程度の広さがあり、長身がはみ出ない大きめのベッドもある。
この部屋に戻ってはじめて「帰ってきた」という気分になれた。どんな場所でもいい。兵士には戻るべき場所が必要なのだ。だが故郷であるサイド3には、4年以上帰っていない。当分は帰れないだろう。あるいはこの作戦の結果によっては、もう二度と帰れないということも。
(帰るべき場所。)
今はただこの茨の園の質素なベッドだけが。
重力も働かないこの場所で、ベッドに身体を結わって休まなければならないこの場所で、ホッとするというのはどういう意味なのだろう。・・・時に考え、時に眠りにつく。
大事を前にはやる心。
三年の時は短いようで長く、部下たちの士気が落ちるのを感じたこともあった。「星の屑作戦」立案後も、それを知りえぬ立場の者たちは、荒れたこともあった。・・・・・・・・・だが、時は来た。
むかし、宇宙のコロニーというものが、どれだけ不安定で、制御ミスの種類によっては一瞬ですべての命がふっ飛んでいくことも知らず、無邪気に遊んでいた。
遠く見える青い星は、ひとつきりの宝物のように輝いていた。
けれどそれは特権の象徴であると知り、見上げることをやめた。
それなのにはじめての赤い大地は美しく、青い海はきらびらしく、空には雲ひとつなく澄んで・・・。
コロニーの中の偽りの空は、晴れの日でも雲を浮かべていた。それは視覚的配慮であって、反対側の家々が見えるのを遮るためであった。
抜けるような青い高い空を、地球に降りてはじめて、ガトーは目にしたのだった。
・・・・・・・・・だが地球に居続ける人間は、宇宙の星の本当の美しさを知らない。
地球の大気に混ざったチリに邪魔されて、星の瞬きを知らない。
それぞれにそれぞれの美しさがあり、それぞれにそれぞれの欲しいものがある。
ガンダム試作2号機を奪ったことも。
これから成そうとしていることも。
(誰にも謝るわけにはいかない。)
・・・・・・・・・だからすべてをこの身で引きうけるだけ。
スプリングもなく、ふかふかの布団もなく、ただのベッドでガトーは眠りにつく。
わすかな休息時間を惜しいものと思いながら。
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