0083.11.13.






・・・・・・・・・その光は、アナベル・ガトーの視界を数十秒ほど奪った。










重い頭を動かして、モニターを見る。

今の衝撃で、回路の一部が焼き切れたのか、
ぼんやりと白い物体の輪郭のみを写している。

感度を調整するために、右手を動かそうとして、
思うようにいかないことに気づいた。

腹部の痛みが全身に広がり、パイロットの命である利き腕に力が入らないのだ。

ここだ、と意識して、人差し指を動かし、スイッチの上に置く。



ようやくカメラが捕らえたのは、ぷかぷかと海の上に漂う小船のような、

『ガンダム試作3号機』

の姿だった。



(・・・あの男、)

巨大なコンテナに焼け爛れた跡が見うけられるが、
中心部の損傷は少ない。

と、すると、意識を失っているのか・・・



ガトーは、萎えない闘争本能の元に、右手でスロットルレバーを握る。

身体にしみついた、何ということのない動作のはずが、苦痛と共でなければ行なえない。





(ウラキ。・・・これで止めだ。)

頭の中で、叫び、思う。



だが・・・・・・・・・、

3号機は、ぴくりともしない。



手首を返し、出力を上げる。

・・・本来のスペックからは考えれない遅さで、ノイエ・ジールが近づいても、

3号機は、まだぴくりともしない。



(ソーラ・システムは、ここを撃った。・・・友軍機に構うことなく。)



所詮、連邦なんぞ・・・



だが、そのガトーもシーマ・ガラハウの裏切りにあっていた。

いつか仇を為す輩、とは思っていたが、
目前で、エギーユ・デラーズの命を絶たれた悔恨は拭いようがない。



メガ粒子砲は、まだ生きている。

今なら・・・・・・・・・、間違いなく、一撃で、心臓部を撃ち抜ける。

ガトーの手が、伸びる。

しかし、3号機は、動かない。





志し半ばで散っていった者たちの未来を、戦うことで償おうとしてきた。



生きることは、時として、死を選ぶよりも辛い。



だが、私に託された未来を、断ち切ることができようか。



誰かに、・・・繋がねばならなかったのだ。



傷ついても、倒れても、裏切られても。





(ウラキ。・・・お前は、それを背負っていく自信があるか?)

死力を尽くした戦い、を、こんな形で邪魔した者どもの間で。



一瞬、闇が襲う。

出血はじわじわと続いている。

心臓が『生』を取り戻そうと、早鐘を打つ。



(私と戦って、何を見たか、ウラキよ。)



そのウラキの銃が、この痛みを与えたことなぞ、もはや意に介さない。





・・・ならば、

「ならば、生き抜いてみよ、コウ・ウラキ!」





(それとわかる姿で、私の前に現われたら、承知せんぞ。)



戦った相手の思いまで糧に、生を全うしてみろと、ガトーは告げたのだ。










紫電一閃、アナベル・ガトーは、アクシズ艦隊の待つ宙域へ駆けていく・・・・・・・・・





戦い、生きる、ために。
















(2001.11.13)

注:上出の写真は、アクシズ艦隊の記録ディスクから、後年発見されたものである。











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