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・・・・・・・・・その光は、アナベル・ガトーの視界を数十秒ほど奪った。
重い頭を動かして、モニターを見る。
今の衝撃で、回路の一部が焼き切れたのか、
ぼんやりと白い物体の輪郭のみを写している。
感度を調整するために、右手を動かそうとして、
思うようにいかないことに気づいた。
腹部の痛みが全身に広がり、パイロットの命である利き腕に力が入らないのだ。
ここだ、と意識して、人差し指を動かし、スイッチの上に置く。
ようやくカメラが捕らえたのは、ぷかぷかと海の上に漂う小船のような、
『ガンダム試作3号機』
の姿だった。
(・・・あの男、)
巨大なコンテナに焼け爛れた跡が見うけられるが、
中心部の損傷は少ない。
と、すると、意識を失っているのか・・・
ガトーは、萎えない闘争本能の元に、右手でスロットルレバーを握る。
身体にしみついた、何ということのない動作のはずが、苦痛と共でなければ行なえない。
(ウラキ。・・・これで止めだ。)
頭の中で、叫び、思う。
だが・・・・・・・・・、
3号機は、ぴくりともしない。
手首を返し、出力を上げる。
・・・本来のスペックからは考えれない遅さで、ノイエ・ジールが近づいても、
3号機は、まだぴくりともしない。
(ソーラ・システムは、ここを撃った。・・・友軍機に構うことなく。)
所詮、連邦なんぞ・・・
だが、そのガトーもシーマ・ガラハウの裏切りにあっていた。
いつか仇を為す輩、とは思っていたが、
目前で、エギーユ・デラーズの命を絶たれた悔恨は拭いようがない。
メガ粒子砲は、まだ生きている。
今なら・・・・・・・・・、間違いなく、一撃で、心臓部を撃ち抜ける。
ガトーの手が、伸びる。
しかし、3号機は、動かない。
志し半ばで散っていった者たちの未来を、戦うことで償おうとしてきた。
生きることは、時として、死を選ぶよりも辛い。
だが、私に託された未来を、断ち切ることができようか。
誰かに、・・・繋がねばならなかったのだ。
傷ついても、倒れても、裏切られても。
(ウラキ。・・・お前は、それを背負っていく自信があるか?)
死力を尽くした戦い、を、こんな形で邪魔した者どもの間で。
一瞬、闇が襲う。
出血はじわじわと続いている。
心臓が『生』を取り戻そうと、早鐘を打つ。
(私と戦って、何を見たか、ウラキよ。)
そのウラキの銃が、この痛みを与えたことなぞ、もはや意に介さない。
・・・ならば、
「ならば、生き抜いてみよ、コウ・ウラキ!」
(それとわかる姿で、私の前に現われたら、承知せんぞ。)
戦った相手の思いまで糧に、生を全うしてみろと、ガトーは告げたのだ。
紫電一閃、アナベル・ガトーは、アクシズ艦隊の待つ宙域へ駆けていく・・・・・・・・・
戦い、生きる、ために。
終
(2001.11.13)
注:上出の写真は、アクシズ艦隊の記録ディスクから、後年発見されたものである。
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