+ 腕 +





「・・・うっ・・・ううっ・・・」



左腕が重い。

・・・鉛のようだ。

引っ張られるみたいに重くて、体まで動きゃしねえ。



『ピピピピピピ・・・・・・・・・』



まずいな。

エア漏れの警告音。

止めないと。



・・・なんだか、瞼まで重い。



目を開けるんだ!

ケリィ・レズナー!!!





「ち・・・チクショウ。」



そうして、ケリィがやっと見たものは、

上腕の真中から、不自然な方向に、

ぐにゃりと曲がっている自分の左腕だった。



衝撃で押しつぶされた装甲が、コクピットの一部まで歪みを伝え、
飛び出したコンソールパネルの破片が、
たくましい腕をねじ切っていた。

・・・かろうじて、皮膚の1cmばかりが、
離れそうな上腕と下腕を繋いでいる。

重力下なら、とうに重みに耐えかねて、
その腕であったものは、地上に落ちているだろう。



「は・・・ははは。」

ケリィは、笑う。



これは・・・何だ?

くっそっー!!!



激痛が全身を走り抜けているのに、まるで他人事のように、
頭のほんの片隅でしか、その痛みを感じられない。



痛みよりも、腕が、
しなやかにMSを操縦してきた、腕が、
戦場で実感した、どうしようもない本能を体現する、腕が、

もう二度と元に戻らないという事実に、

失った左腕の痛みよりも、

左腕を無くしたことで、過去のものとなった矜持が、



・・・ケリィを、笑わす。





ガトーと共に駆ける自分も、

戦場でしか得られない高揚も、

エースパイロットとしても誇りも、



・・・今、この瞬間、すべて失ったのだ。





「やって・・・られるか!」

だが、生存本能が、残った右腕を動かす。

素早く計器をチェックして、何とかこの機体を母艦まで戻そうとする。



『・・・ケリィ!・・・聞こえているか?・・・返事をしろ!!!』

通信機から、安否を確認するガトーの声がした。



「大丈夫・・・だ。ちょっと修理に帰るぞ。・・・そっちは?」

「装甲が少し焼けた、が。」

「・・・そうか。・・・・・・・・・なら、いい。」



おまえまで、こうならなくて、良かった。



「この残弾だと、10分以内には私も戻る。情報を頼むぞ。」

「・・・了解、中隊長!」





推力の落ちたビグロを操って、ドロワに着艦した後、

ケリィは意識を失って倒れ込んだ。



・・・・・・・・・左腕は、つながらなかった。














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