「・・・・・・・・・み、水。」
一時間くらいはウトウトしただろうか。ベッドの上でコウ・ウラキは、水を求めて目を覚ました。身体がダルい。隣で、意外と静かな寝息を立てている男を起こさないように、そーっと、床に足を伸ばし、キッチンへ向かおうとする。右足・・・そして左足で立とうとした瞬間、コウの意志に逆らって、そのひざが折れた。
「わ・・・!!!」
しりもちを付く。・・・つまり、ばたんっと派手な音を立てて、床に座り込んでしまったのだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・ちょっと、待て!
『腰が立たなくなる』って、本当だったのかーーー???
20歳の男にしては、甚だそっち方面の知識が少ないコウではあったが、その位は聞いたことがあった。
「・・・どうした?」
背後から、声がする。この部屋には、コウともう一人しかいない。声の主は、『腰が立たなくなる』原因を作った男だ。しかも熟睡している様でも、こういう時には必ず目を覚ます。コウは、かーっと血が上るのを感じて、それを見られるのがいやで、振り返らずに答えた。ただし正直に。
「水、飲もうとしたら、・・・その・・・腰が・・・立たなくって。」
「・・・は・・・ははは。」
一瞬、呆気に取られた後、さもおかしいといった風情で男が笑いだす。・・・ああーっ!なんか、腹立つ!!
たくましい半身をのぞかせていた男は、足元に丸まっているアイボリーのバスローブを羽織りながら、ベッドから降りた。リビングを通り抜けて単身者用のやや狭いキッチンの冷蔵庫を開けると、よく冷えたミネラル・ウォーターのボトルを取り出す。
「ほら。」
まだベッド脇の床の上に座ったままのコウの所へ戻ってくると、手に握ったボトルを差し出した。受け取ったコウは、のどの渇きと身体の火照りと両方を鎮めるように、ゴクゴクと流し込み・・・
「うっ!・・・げほほ!!」
ムセた。
「・・・・・・・・・落ち着け。」
男は、冷静にそう言うと、残った水を自分でも飲んだ。その喉仏の動きが、今のコウには、妙にいやらしく感じられる。
・・・それに、俺だけ、素っ裸。かっこワリイ。
「あ・・・」
冷たい唇が、コウを襲う。挿し込まれた舌も水を飲んだせいで、冷たかったが、絡まり合ううちに、いつもの熱さを取り戻した。男の太い腕がコウの身体を持ち上げるようにして立たす。だが、その胸板にのしかかられると、コウは耐えきれずに後ろのベッドに倒れ、男の身体がその上に重なった。・・・・・・・・・えっと、何回目・・・だっけ?
「否か?」
コウの言葉にならない声が届いたのか、男はいったん唇を離すと、そう訊いた。
「・・・イヤ、じゃない。」
(それに・・・なんか・・・負けたくない、し。)
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今日の始まり、は単純だった。いつものように食事に出て、いつものようにガトーの家に寄って、いつものように寝た。
・・・一度、寝てしまった二人は、男、を相手に寝ているという事実を、『頭』で噛み砕いて消化するために、たぶん必要以上、互いの『身体』を食べあっていた。
ただ、ガトーに翻弄されるばかりだった晩熟のコウが、少しだけその行為に慣れはじめると、なんだか無性に『受身』の立場にある自分が、腹立たしくなってきたのだ。
ガトーの動きに、いつも先に音を上げてしまう、自分。
「No!」と叫んでしまう、自分。
(・・・今日は、絶対「Give Up」しない・・・しないぞ。)
こうしてコウは、長い夜の最初の数時間の激しい嵐に、なんとか耐えたものの、一時的な休息後、再び目覚めたそれが、さらなる大波と共に押し寄せてくるのにも、必死で耐え抜こうとしていた。
「あっ・・・・・・」
ガトーの舌が腰のあたりでもぞもぞと動き回っている。本当は、かなりツライのだ。もう何度も達かされてて・・・
「そうだ!!」
突然、コウは跳ね起きて、ガトーを驚かせた。・・・こっちが受身だから不利なんだ。そうに違いない。よし。
「ガトー・・・その・・・えっと、動かないで。」
態勢を入れ替えたコウが、ほんの少しだけ勃ち上がっているガトーのそれに、思い切って舌を付けた。・・・こんな感じで、いいのかな。
「・・・なんで。」
数十分後、とうとう、ガトーを達かせることをあきらめたコウが、情けなくつぶやいた。俺だったら、我慢できないのに。
「・・・良くなかった?」
「馬鹿・・・おいで。」
昨日の夜から何度もコウの中に放出しているガトーの方も、「疲れて」いるのだという事実に、コウの乏しい知識では思い至らなかったのだ。
「・・・うっ・・・ガトー・・・」
ガトーの指がコウの中をかき回している。じわりと、そこから放射状に熱が広がっていく。・・・そんなことされたら、また、俺が・・・。
二人とも、特にセックスが好きだ、というわけではない。コウにいたっては、女性としたことすらない。
(・・・男同士でも、『セックス』でいいのかな。)
男と寝るということ自体、数ヶ月前のコウでは、まったく想像できなかったのだ。
(何してんだろう、俺。)
力強い腕の感触も。
(敵、だったのに。)
躍動する腰も。
(戦った、のに。)
コウを捉えて離さない、重苦しいほどの存在感も。
(殺し合い、すら・・・)
「コウ・・・」
「あああっ!!!」
その一言を合図にして、ガトーが押し入ってくる。十分に濡らされているももの、圧迫感だけは防ぎ様がない。
(・・・そういえば、いつから俺のこと、「コウ」って、呼んでるんだろう?)
記憶の中のガトーは、憎らしげだ。確か「ウラキ」と。金網ごしに再会した時も、キースに怒られた時も。それから・・・
「あうぅぅぅ!」
(・・・ダメだ。考えてられない。見えるのは、目の前のガトーだけ。感じるのは、ここにいるガトーだけ。)
「Nohhhhhh!!!」
ガトーに貫かれたまま、コウは達した。もう、・・・・・・・・・許して。
朝、目が覚めて、生きている人間が隣にいる安心感。でも、ガトーの顔を見る度、何て挨拶したらいいのかと悩む。
(・・・マヌケだよ。これって。)
「おはよー・・・ございます。」
充足感と倦怠感が程好いバランスでコウを満たしている。ガトーも同じなのだろうか。
「おはよう。」
清潔なシーツに包まれ、こちらを見ている・・・まぶしいのは、朝の光のせい?そういうことにしておこう。
まだ、始まったばかり、で。
まだ、終わりが見えない、から。
生活に必要な最低限のモノしかない殺風景なこの部屋で、唯一異彩を放っている、コウがプレゼントした「ドラセナ・フラグランス」が、カーテン越しの太陽の光を受けて・・・・・・・・・青かった。
+ END +
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昨日、あんな話を書いた後で、これを上げる私。
・・・・・・・・・いや、だからね(殴)。
コウはね、負けたくないんですよ(殴)。それだけなんです(殴)。
ガトーはねー潔癖なところがあってねー、「ナマ」は嫌いだと思います。
シーツ汚れるし・・・ベタベタするし・・・
管理人@がとーらぶ(2000.08.26)
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