理解し合うこと、そのことはたいしたことではない。











 私は、目覚めているのに、夢を見る。

 展望室の片隅で、強化ガラスの向こうに、宇宙の深淵を捕らえた時に。

 その夢は、とても苦しい。なら、見なければいい。



 ・・・けれど、見てしまうのだ。懐かしくも、苦しい、夢を。










存在理由











 夜の公邸も人の出入りは多かった。当然だろう、政治を司る最高指導者が住むこの館は、一日24時を通して、機能しない時間は無い。だが、その家族が暮らす私邸部分には、喧騒が届かないように配慮がされている。

 キャスバル・レム・ダイクンの部屋も、幼い子供の眠りが妨げられないように、私邸で最も奥まった場所にあった。



 ・・・しかし、そんな配慮にも関わらず、その日、キャスバルは、男の小さくとも野太い声で夜の沈黙を破られた。



 「キャスバル様、キャスバル様。」「んん・・・」



 「キャスバル様、起きてください。」「ん・・・何?」



 「しっ。お静かに!」「・・・わっ?」



 「ジンバ・ラルです。キャスバル様。」「・・・ラル?」



 「さあ、お父様のご命令です。ちょっと外出しますよ。私と一緒にね。」「???」

 ベッドの上で目を丸くして、ラルを見る、キャスバル。今まで、一度だって、こんなことは経験がない。幼いながらも、只ならぬ事態を敏感に感じ取った。



 「お父さんは?」「・・・後から、いらっしゃいますよ。」



 「行かない。」「キャスバル様!」



 「行かない!」「そんなわがままは、なりません。」



 「お父さんに、何かあったんでしょ?話してくれないと、動かない!!」「・・・キャスバル様。」

 青い瞳が強さを浮べて、ジンバ・ラルを睨む。梃子でも動かないといった雰囲気。

 今は、時間が宝石よりも貴重だ。ラルはついに、音を上げた。



 「・・・・殺されました。」「!!!」



 「お父様は、暗殺されたのです。さぁ、急ぎましょう。」「お父さんが・・・」



 「ラル様、お早く。」

 アルテイシアを抱いた若い男が、ドアの外から声を掛ける。



 ・・・幼い日の脱出行。キャスバル・レム・ダイクンとの別れ。





 「お父様の仇を討つんです。」

 「ザビ家の者は、一人として許してはなりません。」

 「時が、あなた様に味方しますとも。」



 「わかってる、ラル・・・」



 隠れるように暮らした地球での日々。

 物心をついた時には、父の仇、ザビ家を倒すのが私の使命、生きる理由だった。それは、当然で・・・





 ・・・・・・・・・嘘だ。

 できることならば、普通の子供として、太陽の元を走り回り、親の愛に包まれ、生きたかったのだろう?



 そうだろう、エドワウよ。





 3番目の名を選ぶときは、ザビ家の末息子と、同学年であることが、第一条件だった。



 「・・・シャア・アズナブルだ。よろしく。」「私は・・・」



 「知ってる。ガルマ・ザビ・・・だろ?」「ああ、よろしく。」

 そして、自分でも誰に対して笑っているのかが信じられないほどの、邪気のない笑顔を向けてやった、士官学校の入学式。



 復讐戦の第一ラウンドは、まだ始まったばかり。ガルマの信頼を勝ち取ること。・・・それは、思ったほど大変ではなかった。彼が、あまりにも世間知らずのおぼっちゃまだったからだ。

 定期試験の首席はガルマに譲ってやった。あまり目立ち過ぎても困るし、彼のプライドを上手にくすぐってやらねばならない。だが、私にも小さな意地と見栄があったのだろうか。実技のトップだけは、一度も彼に渡さなかった。卒業まで。



 私の手の上で踊る、ガルマ・ザビ。「聞こえていたら、君の生まれの不幸を呪うがいい。」





 ・・・・・・・・・嘘、嘘、だ。

 この、何も知らぬ友に、真の友情を感じていたのではないか?

 信じられないほどの素直さが羨ましくて、彼のように、汚されずに生きてみたかったのでは?



 違うか、シャアよ。





 ザビ家の血で汚れた手。思ったほど気持ち良いものでもなかった、ガルマの死。



 赤い彗星の名に印された、私の矜持。戦場でMSを駆っている時、父のことを思っただろうか。復讐を考えていただろうか。

 キャスバルではない、エドワウでもない、ましてシャアですらなかった。エースパイロットとして生きられるその瞬間。



 だが、アムロ・レイがそれを壊した。連邦の白い悪魔。

 かまわないさ。何度、お前に破れようとも、私の目的はザビ家への復讐なのだから。



 そうさ、意味がない。赤い彗星など・・・・





 ・・・・・・・・・嘘、嘘、嘘、だ

 アムロのようになりたかった。父が唱えた人類の革新を体現する者が、私以外の者であったことをどうして許せようか?

 ニュータイプと呼ばれるべきは、私だ。この私だ。ララァ・スンを道具にしてまでも、勝ちたいと思ったのだろう?



 私は、赤い彗星、なのだから。










理解し合うこと、そのことはたいしたことではない。必要なのは・・・











 私は、ララァのことを理解していた。



 それで充分だと思っていた。



 ・・・あの日、あの時までは。





 ララァを得たことで、優位に立っていた、はずだった。

 そして、見事に、覆された。





 お前を奪った、アムロ・レイ。お前の魂に触れた、アムロ・レイ。お前が望んだアムロ・レイ・・・



 だが、今、生きているのは、ララァよ、お前ではなく、アムロなのだ!



 あれから、2年。最後に彼と戦ってから、2年。「・・・二人が戦うことなんて、ないのよ!!」










 私は、何故、ここにいるのだろう。こんな冷たい場所に。地球から遠く離れて。



 ・・・・・・・・・一人きりで。










 アムロよ、

 お前は、日々、ララァのことを思うか?

 私のことを考えるか?





 私だけなのか。こんな思いをするのは。











 漆黒の宇宙は、今日も静かで、そこに多くの命を吸ったことなど、誰にも匂わせない。

 だから、私は、繰り返し、繰り返し、見てしまうのだ。



 キャスバルの、エドワウの、シャアの・・・



 この、苦しい、夢を。










理解し合うこと、そのことはたいしたことではない。必要なのは魂と魂の抱擁である。・・・アンドレ・ジイド
















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こーらぶ様の「共鳴(空虚な石)」を読んで、感想のつもりで書いたお話。

ということで、これ以上いうこともなし。

管理人@がとーらぶ(2000.07.17)











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