シャワー
「は・・・は・・・は・・・。」
ザーザーザー。
男の吐く息の音と壁のフックにかけられたシャワーホースから流れる水音の二重奏。
曇りガラスが蒸気のせいで、いっそうその曇りを増している。
・・・この男が、こんなに息を荒げるのは珍しい。
いや、あまり荒げてもいないのだが、この男にしては充分、という意味でだ。
男の右手の中には、硬く尖ったものが握られている。
・・・男だけがもつもの。
そう男は、自慰行為の最中なのだ。
健康な男が、恋人も持たず、一晩だけの行為も求めず、安穏としてられるだろうか。
もし、それができるなら、動物としては終っているのと同じ。
だから、この男は、男にとって、ごく当たり前の行為をしている。
「は・・・は・・・は・・・。」
ザーザーザー。
右手が前後に激しく動く。
男の手の中で、より硬度と感度を増すそれのせいで、腰に震えを感じる。
男は、何を思いながら、その行為を続けているのだろうか。
・・・男は、困っていた。
最近、男の体を包む暖かさの記憶は、ある男に通じるので。
欲しいのは、その男の暖かみだけなので。
そんなことは、今まで一度も経験したことがない感情だったので。
・・・・・・・・・もう何年も、誰とも体を重ねていないので。
「は・・・は・・・は・・・、・・・・・・・・・うっ!」
ザーザーザー。
単調な繰り返しの後に、男は排出した白い体液を、そのままシャワーで流した。
・・・・・・・・・それを流しても、本当に流し去りたかった『感情』が少しも消えないことに、困ったまま。
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問題作につき、コメントは控えさせて頂きます(・・・逃亡)。
管理人@がとーらぶ(2000.11.20)
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