名前の掟




















・・・・・・・・・アナベル・ガトーは、ずっとソレが気になっていた。



まぁ、ずっとと言っても、

コウ・ウラキの裸の胸を見なれるような関係になってからのことなので、

一ヶ月足らずに過ぎないのだが。



コウの胸には連邦軍の認識票と、

その認識票と同じ鎖に、

赤や青や金の混ざった(ガトーが思うに)派手な柄の、5×2cm位のケースが一緒に掛かっている。



ことにこういう状況、

・・・つまり、シャツとズボンとパンツとソックスなんかを脱いで、

裸でベッドに寝転んでいるガトーのでっかい体の上に、

やっぱりその他モロモロを脱ぎさって、

裸になったばかりのコウが乗っかかってみると、

自然、重力の関係で、首からぶらーんと認識票とソレがガトーの目前に落ちてきたりする。



認識票と一緒、肌身離さず付けているということは・・・

(きっと大切なものなのだろうな。)



それでもいざコトに及ぶときは邪魔なので、サイドテーブルにちょこんと置いたりするのだが。










「ふー。・・・いけねっ!」

日曜の夜遅く、コウは慌しくオークリー基地に戻る。

月曜の早朝までベッドにいたこともあったが、

どうも、ガトーの家から職場に直行というのは、悪いことをしてる気分で落ち着かなかったのだ。



ベッドの下に放り投げたまんまのシャツとジーンズを拾って着、

バスケットシューズに足先を突っ込み、

ささっと髪を撫でつけて・・・、

「じゃぁ・・・」



おおっと!!!

認識票を忘れるところだったと、鎖を引っつかんで両手で頭を通す。



「・・・それは何だ?」

え?

なんだと言われても・・・と、コウが振り返ると、

いつの間にやらガトーの方はすっかり身支度が整っている。

しかも慌てた様子もなく。

(着替えも俺の負けかよ、くそー!!!)



ガトーの目線がコウの胸元に向いていた。



「あー、コレ?・・・認識票。・・・えっと、ジオン軍にもあると思うけど。」

「・・・バカ。そっちの派手なケースの方だ。」

(ムっかー!)

認識票のことなぞいまさら聞くわけないとばかりの暴言(?)だ。



「もう、寝る時間がなくなるから、帰るー。」

「それぐらいすぐ説明できるだろうか。」

「・・・これは『オマモリ』の一種で、東洋のものなんだよ!」

「東洋?」

軍人には、生きて帰るための験をかつぐ者が多い。

当然ガトーは、

女性の陰毛からパワーストーンまで色々な御守りを見てきたが、

今コウが胸につけているようなモノは初めてなのだった。



「何の御守りだ?・・・ずいぶん派手だな。敵機避けとかか?」

「ああ、もうっ!」

屈み込んで、バスケットシューズの紐を結び直していたコウが、

イライラして叫ぶ。

「この派手なのはただのカバーで、中にアリガタイ言葉の書かれた紙が入ってるんだってば!!!」

「・・・どれ、見せてみろ。」

と、ガトーが胸元から、御守りを奪おうとする。

「いいけど、見てもさー・・・」

急に声の調子を変えて、コウが言った。

そう、思い出したのだ。たとえガトーが見たって・・・(ぷぷ)。



「・・・・・・何だ、これは?」



ハデハデ(実は錦模様の)ケースから取り出したその紙には、

不思議な文字が踊っていた。

・・・いわゆる日本語の漢字とひらがな、である。



「だから御守り。・・・じゃぁ、もう行くから(ぐぇぇ)!」

玄関に向かいかけたコウの身体を、ガトーがシャツの襟首ごと押さえた。

思わぬ力で後に引っ張られて息がクルシイ。

とっさに捕まえようと手をだしたら、身長差のせいで首の辺りを掴んでしまったようだ。



「説明してから行け。」

(どうも理詰めというかきっちりしてるよなぁ・・・)

と思いながら、

「この御守りは士官学校に入学が決まった時、母がくれたんだよ。んで、そこに書いてあるのは・・・」

(・・・待機。)



「俺にも読めません。」

(・・・・・・・・・がっくり。)



「どこが御守りなのだ?!」

まだ首根っこを押さえたまんまのガトー。

「だからさー・・・、」

どうもコウの祖父がニホンの出身らしく、

その辺りではポピュラーなものらしい。

昔は、布製の袋の中に、このアリガタイ紙が入っていたらしいが、

今は宇宙世紀仕様のプラスチックケース(・・・ということに)。



「うーむ。」

「あ、でも、ここだけは読めるよ。」

ようやく緩んだ手の中から抜け出して、コウが紙の中のある部分を指した。








_



「『ウラキ・コウ』・・・俺の名前。」

「・・・・・・・・・なまえ。」

「なんでもニホン式だとそういう書き方をするらしいんだ。
アルファベットと違って、この字ひとつひとつに意味があるんだってさ。」

「意味が?」

「うろ覚えだけど、『末木』は、樹の先っちょで、『幸』は・・・ハッピネス。」

「・・・・・・・・・。」

指先で、紙の上の文字を順に示しながら、ガトーに説明する。



(・・・ウラキ。)

その時ガトーには、青空に向かって成長し続ける樹木ととコウが重なって見えた。



(コウ。)

・・・・・・・・・コウの両親が、コウの幸せを願って『幸』の名を与えた気持ちが見えた気がした。





「じゃぁ、もう、本当に行くから。着いたらコールを(ぐわあぁぁ)!!!」

今度は、走り出さんばかりの勢いで玄関に向かおうとしていたコウの背中にガトーが覆い被さったのだ。

「・・・もう、なんだよ〜(わっ?)」

背後から回されたガトーの右手がコウの顎を捉えて顔を右側に向けさすと、

近くなったその耳に囁いた。

「いい名だな。」

と。

コウが、耳元で響いたガトーの声に、

(ガトーの場合は、いい声、だよなぁ。)

などと思ってるうちに、身体を反転させられ正面から向き合う。



・・・・・・・・・そして、コウの額にガトーの唇が触れた。



(えーーーーっ?!!!)

それは、

初めてのキスよりも、

初めての激しいキスよりも、

その後のたくさんのキスよりも、

めちゃくちゃ恥ずかしいキスだった。





どうしようもなくなったコウが、



「あ・・・えっとー、ガトーはなんで『アナベル』なの?」

と聞いた。



「・・・・・・・・・・もう帰れ。」

「は???」





とにかくコウは月曜出勤はせずに済みそうだと、

モヤモヤしたまま、ガトーの部屋を後にした。



(いつか絶対聞き出してやる!)



と誓って。





謎が解けたガトーの方は、コウのいないベッドでたぶんぐっすりと眠った(らしい)。




















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・・・直球らぶらぶ。

あー、恥ずかしかった(笑)。

管理人@がとーらぶ(2002.03.13)











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