俺はこんなにも欲深い男だったか。















 ・・・・・・・・・と思う。



 こんな天気の日は特に。















 光、雷鳴、雨音、風、



 ・・・・・・・・・一瞬の雷光。















 激しくて煌びやかで荒狂って華やかで怖くて儚くて、



 ガトーみたいだ。















 ガトーみたいで、



 ガトーに会いたい。















 ガトーを思い出して、



 ガトーが欲しい。















 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・何もかもすべて、



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ただガトーが。










綺羅火











 ガトーがいなくなって、これで三度目の週末。もしかしたら帰ってるんじゃないかと、・・・このドアを開けたらいつもみたいに笑って迎えてくれるんじゃないかと、無駄だと分かっていてもこのマンションに足を運んでしまう。とくに約束がない限り、週末は一緒に過ごすのが『お約束』だった。・・・だから足を運んでしまう。

 でも俺が見るのは、ガトー一人いないだけでずいぶん広く感じる見なれた部屋。人気のない部屋。主の消えた部屋。



 おまえは正直すぎる、とよく苦笑された。

 ・・・どっちがだよ。俺には分かってた。もうすぐ俺の前から消えるだろうって。それも仕方ないことだと。いつかはそうなるって分かってた。・・・頭の中でだけ。



 違う。・・・心は違う。こんなにも会いたい。こんなにも欲しい。こんなにもガトーが。











コウへ



こういう形でしか、別れを告げられなかったことを申し訳なく思う。

許してくれとは言わない。
おまえなら、許してくれることが分かっているからだ。
そういう懐の深さがおまえにはある。
揺るぎなく、すべての枝葉が落ちようとも季節が巡れば甦る大樹のような。

できれば、・・・ずっと一緒にいたかった。が、しょせん同じ土地に生えることはできぬ。
とうに気づきながら、思い切ることができなかった。甘え過ぎていたな。





卑怯なようだが、真実だと告白するため、最後に書こう。



愛している。

おまえだけを。

今も、そしてこれからも。



さよなら、コウ。













 日付も署名もない手紙。・・・ほんとに卑怯だな。・・・・・・・・・らしくなく意外と細い綺麗な筆記体。



 この手紙を何度読み返したことだろう、この部屋で。主のいないこの部屋で。

 トランクひとつで宇宙から降りてきたガトーは、この部屋を借りてからも物を増やしたがらなかった。それでも生活していれば何かと物が増えていく。それらをすべて置いたまま去った。俺が買ったものも、ガトーが買ったものも。結局、宇宙から持ってきたものだけを持ち帰ったのだ。ガトーがいないこと以外、何も変わらぬこの部屋にいるのは辛い。

 ・・・・・・・・・それでも足を運んでしまう。



 クローゼットには、ガトーの衣服が掛かっている。春夏秋冬、季節が変わる度に増えていった。その光景がこんなにも鮮明に思い出される。お気に入りのサマーセーター。カシミヤのマフラー。羊皮のロングブーツ。・・・こんなにも鮮明に。

 開けると中に、ガトーの匂いが詰まっていた。一瞬その香りに包まれた後で、俺は慌てて扉を閉めた。これ以上、逃がしたくなかったガトーの匂い。後ろ手でしっかりと閉めながら背を扉にもたせ掛ける。そのまま立ってられなくて、ずるずるとその場にしゃがみこむ。フローリングの床の柄だけがやけに大きく視界に入る。しばらく座ったままでいる。

 くっ・・・くくっ・・・くっくっくっ・・・と、だんだん自分のバカさ加減に笑いがこみ上げてくる。匂いなんか閉じ込めて何になる?















 くっ・・・・・・・・・くっそーっ!・・・なにが『許すことがわかってる』だよ!!!



 これを書いた時のガトーの表情まで想像できてしまう。そういう付き合いをしてきたのだ、俺たちは。だから・・・・・・・・・、



 ガトーに触れたい。















 光、雷鳴、雨音、風、



 ・・・・・・・・・一瞬の雷光。



 激しくて煌びやかで荒狂って華やかで怖くて儚くて、



 ガトーみたいだ。



 ガトーは地球の天気の変わりっぷりをよく楽しんでいた。雨の日に雨に濡れ、雷の日に雷を見て、晴れた日に陽を浴びて。残留放射能を多分に含んでいるはずの雨に打たれるガトーを俺はよくシャワーに押し込んだ。その元を作ったのはガトーだ。馬鹿げた光景なのに、それすらこんなにも鮮明に思い出す。















 ・・・そうだ。ここにいたってガトーはもう戻ってはこない。いいかげん分かれよ。それに俺が欲しいのはガトーの面影じゃなくて・・・・・・・・・、



 『ガトー』そのもの。














 ガトーが宇宙へ帰ったとしたら、戦いのあるところにいる。必ずいる。これだけは絶対だ。・・・第一艦隊でも第ニ艦隊でも、どこだっていい。宇宙に上がろう。



 ・・・・・・・・・俺はもう恐れない、何も。















 0087年3月2日、エゥーゴがグリプス1よりティターンズの試作モビルスーツRX-178ガンダムMk-IIを奪取。










 同年4月、コウ・ウラキ中尉、外周艦隊に転属願いを提出。同月受理。・・・・・・・・・コウにとっては、3年半ぶりの宇宙である。










+ END +




















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びっくりした人もいるかなぁ・・・。私の中では二年前からこの予定でしたが(笑)。
ガトさんはまだ自分の幸せを受け入れられない人なのですよ(苦笑)。

では、しばしおやすみします〜。

管理人@がとーらぶ(2002.08.18)











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