Intermission -2-










・・・・・・・・・私は一度だけ、少佐が泣いている姿を見たことがある。











核融合を行ないながら輝いていた星は、いずれ終末の時を迎える。



燃え続けるための燃料を燃やし尽くし熱源を失い、やがて自分自身の重みに耐えかねて、中心へ向かって収縮を始める。

その圧力が限界に達した時、星は爆発し、もっともっと輝く。





『スーパーノヴァ』と呼ばれる現象である。





− 星の辞典より −











「・・・少佐。」

眠り続けるアナベル・ガトーを前に、カリウスは悩んでいた。



誘爆を続けるノイエ・ジールから助けだしたガトーは、まだ意識を失ったままだ。アクシズへと向かう艦の医務室にその身を横たえて。





一年戦争の時から仕えてきた、憧れの人。



ジオンでもザビ家でもない。カリウスにとっては、ガトーこそが、ジオンだった。そう言えば叱責されるのはわかりきってるから、一度も言ったことはないけれども。

新兵の頃は、訓示を受けるだけで、ピリピリに緊張した。初陣の後は、目を見て話せるようになった。やっと初の獲物を落としてからは、笑えるようになった。肩を叩かれ励まされ、酒を飲んで心安く、そしてそして・・・・・・・・・










ある日のミッション、ザクのモニターに映る星の光がいつもと違うことに気づいたカリウスが呟く。



「・・・あれ、あんな場所に星があったかな?」

「いかんぞ、カリウス!・・・昨日のミーティングでソフトの交換をしておけといったはずだが。」

哨戒空域にはまだ遠く、回線が開いたまま。独り言のはずが、ガトー大尉に聞こえていたようだ。そういえば、遠くオリオン座の一角で『超新星爆発』が確認されたとかって・・・、



「はっ、すみません、大尉。」

「もしも計器が壊れたら、自分の目だけが頼りなのだ。常に星の位置を頭に入れておけば、帰還のための目安になる。」

・・・その言葉は、どこか優しい。怒られているはずなのだが。



(スーパーノヴァ・・・か。たしか・・・星が死に際に、いっそう輝いて起こるんだよな。)










ジオンの敗戦が一兵卒のカリウスにすら、予測できるようになったのは、ドズル閣下の死を聞いたからである。



ビグ・ザムでソロモン要塞を出撃、戦死。不沈のはずの要塞は連邦の手に渡った。



・・・・・・・・・その同じ時間、ソロモン海域でガトー大尉率いる302哨戒中隊が戦っていた。だが戦闘の最中、最高司令官が戦死したなどという戦意を下げるような情報は流れない。戦線を撤退し母艦に帰ってから聞かされた、痛恨の知らせだった。



同じ時間、同じ空間にいながら、死にいく上官を、死なせてしまった。





『まだジオンが負けたわけではないぞ!』

誰もが唇を噛み締め、沈痛な面持ちで頭を下げる中、ガトー大尉が言う。・・・そうとしか言えないのだ。彼は部下たちを鼓舞する役割も演じねばならなかったから。





そうして幾許かの時間が過ぎて、MSデッキの隅、区切りの柵を握り締めて、肩を震わせるガトーの後ろ姿を見た。

間違いなく、ガトー大尉は泣いていた。



尊敬する上官のために、片腕を失った戦友のために、初めて亡くした部下のために。










エースパイロットでも憧れの人でもない、もう一人のアナベル・ガトー。・・・・・・・・・ああ、どうか、






もしもジオンが負けるなら、その瞬間も、大尉のそばにいたいです。



もしも大尉が亡くなるなら、その一瞬も、大尉と共にありたいです。





生きるも死ぬも、大尉とならば・・・・・・・・・










その願いは果たせないまま、一年戦争は終った。

ガトーもカリウスも生き抜いたが、グラナダ撤収戦で離れ離れになってしまったのである。





・・・・・・・・・三年以上の月日が流れ、『星の屑作戦』のために、デラーズ・フリートが兵隊の数を欲していると聞いたカリウスは、迷うことなく馳せ参じた。たった三人になってしまった302哨戒中隊の戦友と共に。




大尉、・・・いや、ガトー少佐は以前と同じに輝いていた。

・・・強いて言えば、少しだけ顔つきに重みが増したように見える。たった一度しか不可能な反抗作戦の実行部隊を率いる責任からだろうか。





・・・・・・・・・アナベル・ガトーは、いつもいつも、輝いているように見えた。

熱い魂をエネルギーに、自らを燃やし、炎を絶やすことなく。



もしも、・・・・・・・・・

もしも、そのエネルギーが尽きてしまったら、どうなるのだろう。



もしも、・・・・・・・・・

もしも、アナベル・ガトーであることに耐えられなくなったら、目も眩むような輝きを残して爆発し、消えてしまうのではないか。










もしも、そんな瞬間が訪れるなら、・・・・・・・・・



やはり、そばにいたいと思った。





膨れゆく炎に一緒に焼かれて、それで幸せだと思った。





思ったのに・・・・・・・・・、










制御不能に陥ったノイエ・ジールの姿を見た時、カリウスはそんな思いを微塵も感じなかった。



『助けなければ!!!早く!!!!!!』





そして今、点滴のチューブとモニター用の電極とを付けられて、眠ったままのアナベル・ガトーがいる。じっと見ていると、時々、眉間の皺が深くなる。

・・・・・・・・・夢でも見ているのだろうか。戦場の?苦しい夢?



(このまま天国の門を叩かないで下さい、少佐。)



死ぬ時は、共にありたい。・・・でもまず生きて欲しいのです!





『だが、少佐はどうなのだろう。』



その疑問がずっとカリウスを苦しめていた。医者の話では、回復の見込みは五分五分だという。もし助かったとしても、MSのパイロットとして復帰できるかどうか、わからないと言われた。





ジオン敗戦の日、ア・バオア・クーで死に後れた少佐は、ずっとそのことを恥じていたのではないか?

グラナダの撤収戦の時、収用時間を超えてまで戦っていた少佐は、・・・帰れなくてもいいと思っていたのではないか?




だから『星の屑作戦』の中に、死に場所を求めていたのではないか?





『・・・・・・・・・許してください、少佐。』

どんな形でも、どんな姿でも、この世にアナベル・ガトーという人間がいる以上の、喜びはないと気づいてしまったのです。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・その声は、まだアナベル・ガトーには届かない。










-End-











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