グリーン・フローラル
「・・・?・・・・・・・・・ああ。」
コウ・ウラキは目が覚めてすぐ、お尻の辺りに何か違和感を感じた。
ベッドの上だというのに、硬いものがそこにあるらしい。
そしてすぐ、納得した。
こんな状況で硬いものといったら、アレしかない。・・・にしたって、さぁ。
何となく声に出して、言ってみる。
「・・・あのー、ガチガチなモノが当たってるんですけど。」
「・・・そういう、お前もだろう?」
「うわっ?!」
コウの悲鳴は、寝てると思っていたガトーが、声を出したことと、
そのガトーが背後から、いきなりコウの下腹部に左手を伸ばして、
同じく硬くなっているものを握ったからだった。
「ガトー・・・。だって昨日あれだけヤッたのに。」
二人の体はベッドの上で、ちょうどスプーンのように重なっていた。
コウの背中をガトーが見る格好である。
「だから、お前も同じだろう?」
笑いながら、アナベル・ガトーが言う。
コウが覚えている限りでは、たぶん一晩で5回の新記録のはずだった。
最後の方は朦朧としていたので、自信がなかったが。
「・・・でも、もう少し節操というものが。」
コウは寝転んだまま体を回転させて、ガトーの方に向き直った。
「・・・シャワーでも浴びるか?すっきりするぞ。」
「え・・・いいや。」
たまたま目が覚めてしまっただけで、まだ朝の6時過ぎだ。
コウはまだ眠っていたい。だが、
「いいから、ほら。」
ガトーはさっさとベッドから出ると、コウの腕をつかんで引っ張る。
「ええ〜〜〜一緒に入るの?」
ガトーの力は強い。
コウは渋々起きあがって、引きずられるように、バスルームへ歩いた。
だって、ガトーがまだ腕をつかんだままだ。
「・・・冷たい!!」
「ははは。」
ガトーは、出始めの冷たい水をわざとコウに浴びさせる。
ガトーの視線が、コウの下腹部に落とされた。
(・・・ほら、元通り。)
とでも、言いた気な顔つきだ。
「そっちだって。」
コウはガトーのからかいに敏感に反応した。
ガトーの手からシャワーホースをぶん取ると、左手で水栓を開きながら、
ガトーの下半身をめがけて、水流を走らせる。
「うっ。」
さすがのガトーも水の冷たさに縮こまった。
・・・もちろんアレが。
「風邪ひくぞ。」
急に冷静な声を出して、ガトーが水栓をゆっくりと戻した。
ようやく暖かくなったシャワーの水を二人の全身に滴らせる。
(・・・なんか、キレイ。)
コウは、目の前のガトーの銀髪に少し水がかかってキラキラ輝く様を見て、
不意に心が惹かれた。
コウの髪は真っ黒だ。両親ともそうである。
あらためて考えると、ずいぶん自分と違う外見だよなぁとしみじみ思ってしまう。
・・・だから言った。
「ガトー、俺が髪を洗ったげよっか?」
「は?」
「ね、俺に洗わせてよ。ガトーの髪ってすごくキレイだから。」
ガトーがコウに戸惑いを感じるのはこんな時だ。
物言いがストレートで、20歳を過ぎた男という感じがしない。
面と向かって、「きれい」だの「美しい」だの言われることに、慣れていないわけではない。
エースパイロットというものは、数々の賞賛を受けてきているものだ。
ガトーの戦いぶりを誉めるならまだしも、何か勘違いしている人間が、
「ハンサム」「かっこいい」果ては「美しい」と、憧れの言葉を述べる。
だが、そういう人間とコウは違っている。
何といっても、コウはガトーとベッドを共にする仲なのだ。
その男が「キレイ」だなんて言った日には、
むず痒さと照れがまざったようなものが湧き上がって、
顔が赤くなることすらあった。
・・・絶対、コウには見られないようにしてはいたが。
立場を置き換えて、自分がコウに対して「美しい」と言うことは、
(・・・考えられんな。ふっ。)
「ガトー、下に座ってくれる?」
どうやら、ガトーの返事を聞く前に、すっかりその気になっているコウが頼む。
そう、二人の身長さは、10cmを軽く超えていた。
立ったままでは、洗いにくいこと、この上ない。
「・・・クス。」
「あー、鼻で笑ったな。・・・どうせ届きませんよ。」
むくれたように言うコウの表情がおかしくて、
ガトーはバスタブの中に、座ってやった。
コウがその背後に、立つ。
少し寒くなってきたので、お湯を溜めながら、
コウは壁の窪みに置いてあった、シャンプーを手に取った。
「これ・・・ね。」
ポンプを押して、少量を手の平に取る。
薄い緑のゼリー状だ。
瞬間、辺りに、爽やかな香りが広がった。
「・・・あ、ガトーの匂いだね。・・・ええと、グリーン・フローラル、か。ふーん。」
コウが一人で喋って、一人で頷いている。
「どうした?」
「いや、髪がいつも艶々してるから、何かいいシャンプーなのかなっと思って。」
「別に、銘柄にこだわりはないぞ。弱酸性なだけで。」
「弱酸性?」
「・・・柔らかくて、痛みやすいからな。」
「ふーん。」
ただ『髪が痛みやすい』だけなのに、
ガトーにも弱い所があるんだなぁと、コウはどこか不思議に思う。
コウは、両手の平をこすり合わせて、シャンプーを泡立てると、
ガトーの長い銀髪を洗い始めた。
「じゃあ、流すよ〜」
絶妙な指さばきで、ガトーの頭皮までこすってから、コウは泡を洗い流す。
「・・・上手いな。」
目を閉じて、頭から全身を伝う暖流を受けながら、ガトーが呟いた。
「そう?良かった。」
実は士官学校時代に、先輩の命令で、何十人もの頭を洗わされたことがあるのだ。
それはある事件の罰としての事だったが、
根が真面目なコウは、痒い部分まで聞きながら、少年たちの頭の群れと格闘した。
おかげで、多少はシャンプー技術に自信があったわけだ。
・・・それ以来、なかなか発揮できなかっただけで。
「はい、終わり。」
「・・・・・・・・・リンスは?」
「・・・あっ、ごめーん、忘れてた。」
シャンプーの泡をきれいに流し終わったところで、コウがそう言った。
「いや・・・官舎は、シャワーが共同だし、リンスインシャンプーしか置いてないんだよ。それで、つい。」
リンスのボトルを押しながら、弁解する。
辺りにまた、爽やかな匂いが広がった。
森の中で寝転んで昼寝をした時みたいな。
「やっぱり、いい匂いだね。これ。樹の香りっていう感じで。」
急に、ガトーは斜め後ろに右手を伸ばして、コウの首を掴んだ。
そのままグイッと前に引き降ろすと、自分の顔を横に向けて、ちょうど鼻の辺りに、コウの頭を持ってくる。
そのまま、くんっとコウの黒髪の匂いを嗅いだ。
「おまえは、お日さまと大地の匂いがする、」
(な。・・・・・・・・・しまった!)
そう言ってしまってから、ガトーは恥ずかしくなった。
(お日さまと大地の匂いだなどど、・・・『美しい』と言ってるのと同じことではないか。)
「へぇ・・・そう?たまにはカワイイこと、言うんだね。」
言われた相手は、平然と受け止めている。
ガトーのように当惑する様子も赤くなるそぶりもない。
・・・その分、余計にガトーの方だけが、恥ずかしさが増した。
(くそっ。)
「・・・貸せ、私が洗ってやる。」
ようやく、長い忍耐の時間が終わった。リンスも流し終わったのだ。
あれから、コウの視線を背中に受けているのが、無性に照れくさかった。
コウの髪を洗ってやらないことには、気分的にバランスが取れない。
「ほんと?わー嬉しいな。」
(・・・ええぃ!)
やはりストレートにそう言えるコウに、ガトーは戸惑わされてた。
「痛・・・ッ。乱暴だなぁ。」
「これくらいの方がいいのだ。」
ガトーは、軽い苛立ちをぶつけるように、ガシガシっとコウの頭を擦る。
・・・しばらくそうしてから、バカバカしくなって、優しく洗い始めた。
(おまえには勝てない、と私が思うことがあると気づいてるか?)
ガトーは黙って問い掛ける。
だが、恐らく、そんなことに気づかないのが、
コウ・ウラキ
という男だと、知ってもいた。
「・・・なんか、お腹空いちゃった。俺、コーヒーを沸かすから、何か作って、ガトー。」
ガトーの思いに気づかぬまま、コウも思った。
(一生懸命追いかけてたガトーの背中が、触れるとこにあるなんて・・・俺、結局、どうしたいんだろ?)
そんな二人は、たぶん・・・なのかも、しれない。
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きっと、朝に読んだ方が、楽しいでしょう(^^;)。
たぶん、私も疲れてるんです<?(笑)。
どうやらお腹を見せても大丈夫になった後みたいですね(笑)。
この慣れ方は、どうだ(爆笑)!
出だしを書きながら、ゲラゲラ笑ってしまいましたわ。本当。
笑えない人はすみません(・・・ダレ?)。
じゃー(大笑いしながら去る)。
管理人@がとーらぶ(2000.09.18)
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