ドラセナ・フラグランス
「・・・ケーキって、柄でも・・・ないよな。」
コウ・ウラキは悩んでいた。
「酒・・・も、免許がない上に、この童顔じゃあ・・・」
さして大きくもない、オークリーの目抜き通りの商店街で。
「ふーっ・・・何がいいのかな〜〜〜」
今日、コウはアナベル・ガトーの住むマンションに招待されていた。
コーヒーを飲みにふらっと立ち寄ったことはあったが、
正式に「呼ばれた」のは、初めてだ。
これというのも、コウが「ジオン風シチューを食べたことがない」と言ったのがきっかけで、
ガトーがそれを、なんと手料理で振る舞ってくれるらしかった。
(・・・ああ見えて、料理をするんだなぁ。)
普段は、街のダイナーで食事を済ませているが、
どうしても舌が恋しくなった時だけ、「母の味」を自分で作って食べているらしいのだ!!!
これがチャック・キースなら、何も考えず、ご馳走になりに行っただろう。
だが、コウは、お呼ばれする時には、
「手土産を持っていく」ような家で育ったおぼっちゃまだったので、
ガトーに何を贈ればいいのか、真剣に悩んでいた・・・
「待てよ、料理ができるんなら、なんかそれに関係したものでも・・・」
ちょうど雑貨屋の前に差し掛かったコウは、店頭に置かれている品をちらっと見る。
お徳用・ランチョンマット3枚セット。
銀のスプーン5本購入の方に、もう1本おまけ!
ミニ皿(フラワー柄)いろいろ有ります。
「・・・」
(だっーっ。さっぱり、わかんねー!!!)
「だいたい、どんな顔して、料理するんだよ。」
コウは、記憶にあるエプロン姿の母親をガトーに置き換えてみたが、
「・・・怖い。」
想像し終えるのは、あまりに困難だったので、途中で止めた。
「そういえば、なんか見たい映画があるって。」
前に、一緒に街をブラブラしていた時、ガトーがディスクショップに寄った。
コウには、興味のないジャンルだが、「ジダイゲキ」というのが好きなのだ。
それなら・・・とディスク屋に足を向けながら、
ガトーが見たがっていた映画のタイトルをコウは思い出そうとした。
「えっと・・・・・・・・・そうだ、サムライだよ。SAMURAI!!!」
(・・・『Seven SAMURAI』いや、『Eleven SAMURAI』・・・うーん。)
名前につられて、キモノを着た男たちがワラワラと群れている場面を想像する。
「・・・やめ、やめ。一緒に見ても、全然、つまんない。」
「ガトーの好きなものって・・・・・・・・・何だっけ?」
とうとう、商店街の端まで来てしまったコウは、
折り返す間に、絶対、決めてやる!と決心しながら、
ガトーの趣向を考えあぐねていた。
「そういえば、部屋も殺風景だったしなぁ。」
部屋の主に比べれば、狭く感じた1LDK。
調度品というものの必要性を全く認めていないかのようなシンプルな部屋。
テーブルに椅子ひとつ。
それからベッド。
たぶん本当に必要なのは、コンピュータの端末だけ。
宇宙と彼をつなぐもの。
コウの官舎だって、造りは簡素だが、・・・雰囲気が違う。
そうだ。
「写真が無いからか・・・」
軍人はみな、写真を飾るのを好む。
家族の・仲間の・恋人の・憧れ人の・・・・
部屋にも愛機にも。
それが、無いのだ。
「・・・ガトーの大切なものって、一体?」
「花、なんか持って・・・・・・・・・行きたくないなぁ。」
女性ならまだしも、野郎なんだから。
花屋の前で、たくさんの色に目を奪われながら、軍服姿のコウがつぶやく。
それでも、つい足を止めてしまったコウは、
恋人にどの花を選んだらいいのかさっぱりわからないウブな少年・・・にしか見えない。
・・・不本意でも。
「あ・・・。」
その時、店先ではなく、花の影に隠れるように置いてあった
観葉植物の鉢が目に入った。
珍しいものではないが、コウの視力が、鉢に添えられているプレートの方を捉えたのだ。
"ドラセナ・フラグランス"
別名
『幸福の木』
「・・・なんか、いいなぁ・・・コレ。」
・・・あの殺風景な部屋に、一本の緑。
「うん、イイ!絶対イイ!!」
やっと贈り物が決まった嬉しさに、
その鉢植えがコウの背丈の半分ほどもあり、
持ってみればずしりと重くて、ガトーの家まで運ぶのに苦労しそうだったけど、
スキップしたまま、駆けて行きたいくらいだった。
「・・・何だ、これは?」
『Hello!』と陽気な声が、インターホンから聞こえて、
玄関に迎えに出た部屋の主は、
「はぁはぁ・・・」と息を切らせ、軽く汗を浮かべたコウが、
大きな鉢を大事そうに抱えているのを見た。
「ガトーの部屋って、なんか寂しいだろうー?だから、お土産。」
「・・・・・・・・・そうか。」
どうして、そうなる?
それでも、コウの好意は伝わる。
ガトーは鉢を受け取ると、コウよりは軽々と抱えて、部屋の隅に置いた。
「えっと、水のやり方とかは、ここに書いてあるから。」
そう言って、コウは、鉢に添えられたネームプレートの裏側を指差す。
「ドラセナ・フラグランス。別名・・・」
プレートを目で追いながら、書かれている文字を読んでいたガトーが、
そこで、絶句した。
「別名幸福の木だよ。いいだろー。」
(・・・恥ずかし気もなく、こんなものを。)
だが、コウの表情は、何の曇りもない。
ガトーは、深読みしすぎた自分のことこそ、恥ずかしくなった。
(・・・不覚。)
今日に合わせて、どうやら買い足したらしい新品の椅子にコウを座らせると、
ガトーは、ジオニック・シチューがメインの晩餐を始めた。
窓辺には、何とか場所を得た『幸福の木』がたゆたんでいる。
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えっとー、タブレットが使えなくなった私は、
何を思ったか、○年振りにネームを切るという、暴挙に出てたのです(笑)。
・・・そう、このお話は、漫画で描こうかと思ってたんですよ(恥ずかしい〜)。
だって、「手土産ひとつ」に真剣に悩むコウは、かわいいと思いませんか?(笑)。
きっと二人くらいはいるハズ・・・(^^;)。
「幸福の木」って聞いて、どう反応したらいいのか、わからなくなるガトー様もかわいいと思いませんか?(笑)。
私はそうです・・・(><)!
なんですけど、「野獣〜」を上げてしまって、管理人しかわからない設定というのが、
どうにもマズイ気がしてきたので、急遽UPしてしまいました。
・・・文字にすると、こんなに短いんだねぇ(苦笑)。
管理人@がとーらぶ(2000.08.26)
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