Diamond
- the value of 10 on the Mohs scale of hardness -
ダイヤモンド【Diamond】
現存する鉱物で唯一硬度10を誇る宝石の王様
「・・・あれ?」
冷たい北風の中、それでも貴重な時間を街歩きに費やしていた、コウ・ウラキの足が止まった。
・・・しかも宝石店のショーウインドーの前で。
「へえ・・・。」
興味深さを目にありありと浮かべ、ガラスの向こう側を見ている。
一緒に歩いていたアナベル・ガトーも仕方なく立ち止まるが、訝しげな顔だ。
『R.A.Diamond』
きらびやかな指輪やネックレスやピアスの後ろに立て掛けられたカード。
(ダイヤモンド・・・・・・・・・?
まさか、指輪が欲しいとか、言い出すのではあるまいな?!
・・・・・・・・・そんな気持ちの悪いこと、死んでも私はせんぞ。)
「見て、ガトー。」
「絶対買わん!!!」
・・・はぁ?
ああ、と気づいて、コウがくすくす笑い出す。
「やだなぁ。アクセサリーなんかに興味ないよ。・・・そうじゃなくて、これ見て。」
コウが指差したのは、さっきのカードのさらに後ろ。
仕切りの壁に貼られたポスター。
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冬の特別キャンペーン
"あなたの名前が星になる"
0.3カラット以上のダイヤモンドをお買い上げの方に
R.A社が持つ星の命名権をプレゼント!
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「いいなぁ、自分の名前を付けてもいいんだろ?」
「・・・。」
「あ、ガトーからなら、宝石じゃなくても何でも嬉しいと思うけど、俺。」
「・・・・・・・・・。」
そう言って、ガトーを見れば、なんだかむっつりと黙り込んでいる。
「あれ・・・、だから別に買ってくれって言ってるわけじゃ・・・」
「・・・アースノイドの考えそうなことだ。」
淡々というより冷たくさえ聞こえる口調でそう言うと、さっさとホテルの方向へ歩き出す。
スタスタスタ・・・
「ちょっと・・・待ってよ、ガトー。」
コウが早歩きしないと追いつけないスピードでガトーが進んでいく。
・・・こういう時の彼は、怒っているのだ。
・・・・・・・・・でも、何で?
「ガトー!」
スタスタ・・・
「ガトーー!!」
スタスタスタ・・・
「ガトーーーッ!!!」
がしっ!
コウが呼ぶのを無視して歩いていたガトーだが、さすがに腕を掴まれては、速度を落とすしかない。
「ガトー、何を怒ってるの?」
・・・話してよ。
・・・・・・・・・話さないとわからないよ。
ふーと溜息をひとつ。ガトーが話し出す。
「星の『命名権』が売り買いされるなど。
星はアースノイドのものではない。まして個人のものでもないぞ。」
すがるような目でガトーの言葉を聞いていたコウだが、
「えー?別にいいだろ。どうせ星を発見した人の名前が付いたりするんだから。
それなら、この方が夢があるよ!」
(・・・コウ星とかウラキ星とか・・・ガトー星だって!)
ガトーの言ってることが、どうもピンとこなくて、威勢良くそう言い返す。
「・・・・・・・・・おまえも、やっぱりアースノイドだな。」
スタスタスタ・・・
「待ってよー!!!」
夕方、太陽がぎりぎり落ちていく時間。
一刻ごとに寒さが増す北風に逆らって、駆けるようにホテルへ向かう。
さっきまで、ただ歩いているだけでほんわかしてたのに、一瞬で変わる二人の距離。
・・・とても遠くて。
明日、飛行機でオークリーに帰ったら、それで休暇も終わっちゃうのに。
・・・こんな気分、絶対良くない!!!
「もう、ガトーってば!!!」
フィンランドへのクリスマス休暇旅行の帰り道、
悪天候のためフライトが狂って、アントワープで乗り継ぎすることになった。
そんなだから予定もなくて、夕闇の落ちそうな街をただぶらぶらと歩く。
古い街並みを大切にしてるせいか、敷石が詰まった小路に樫の街路樹。
通りに面した家々の軒先には、宝石店の看板がずらり。
・・・そう、ここアントワープは世界最大のダイヤモンド取引量を誇る街だった。
口数の少ないまま、ホテルのレストランで気まずい夕食。
部屋に戻ってからも備え付けのテレビを見るふりをして、コウの方を見ない。
・・・そう、コウにはわかっていた。
ガトーがただテレビを見る「ふり」をしてるってこと。
だからって、星の名前ぐらいでこんなに怒るなんて理不尽だし、こっちが謝る必要も感じない。
結局、同じ部屋にいながらシングルのベッド二つに別れて眠る。
こんなの初めて。
すぐ側にガトーがいる空気が伝わってくる分、余計にひとり寝のベッドが寂しい。
オークリーよりはるかに寒いヨーロッパの冬。
でも今日の夕方までは、寒いけど寒くなかったのに・・・・・・・・・
・・・・・・・・・もぞぞぞ。
「・・・うーん。」
あれっと思った時には、もう肌に誰かが触れている。
今ここでベッドに入り込めるのは、当然ガトーしかいないが。
「う・・・もう、起きる時間?」
「いや。」
コウはまだ目が慣れない。が、確かに外は暗いようだ。
昨夜、なかなか寝つけなかったせいで、コウはまだ眠気に襲われたまま。
・・・でも、唇に唇が重なり、熱い舌が入り込んでくる。
おはよーのキスじゃなくて、もっとコウをどきどきさせるもの。
大きな手が頬を撫でる。
(誰のせいで寝つけなかったと思ってんの?)
「・・・コウ。」
仲直りってこと?それとも、やりたくなったってこと?
ガトーの手が忙しないほどに動いて、コウの下着の内側に入るが、まだそんな状態じゃない。
だが、その指でぎゅっと握られると、すぐに反応してしまう。
指の感触だけでなく、その先に待つものが、コウを昂ぶらせるのだ。
目の筋肉が疲れたように痺れたままだが、ガトーのせいで意識がはっきりする。
(・・・卑怯ものー。)
愛撫もそこそこに、コウの腰を抱えて正面から一気に挿入する。
「ま・・・早い、よ・・・うっ!」
いつものように固く尖ったものを誇示するガトーに、
いったいいつからそのつもりになってたんだろうと頭の片隅でコウは思った。
舐められもしないうちに、こんなに強引にガトーが欲するなんて珍しい。
もう慣れた行為とはいえ、女性と違って中から濡れないから、少しの痛みが免れない。
「ガトー・・・ひどい・・・うんん。」
文句を言う口はガトーに塞がれた。
繋がったまま、静かにキスをくりかえす。
唇も額も眉も瞼も頬も耳たぶも喉も首筋も鎖骨の窪みも・・・
ガトーはただ唇を這わすだけで、腰を動かそうとしない。
だが、キスの場所を変える度、つられてコウの中のものが動いた。
ピクピクと動いた。
「・・・ガトー、・・・あっ・・・。」
じわりじわりと感じさせられて、コウの神経が欲し始める。
続くのはただ優しいキスと愛撫。
目の前にいる大きな男が与えているとは思えないほど。
「ガトー・・・もっと・・・もう・・・。」
大きな塊を内に抱えたまま静かに続く行為に感じつつも、くすぶるだけの炎に我慢できなくてコウがねだる。
もう一押しがないと、イクにイケないのだ。
・・・まだ右手の指と指の間を丁寧に舐るだけのガトーに焦れて、
コウが自分で慰めようとすると、ガトーの手がそれを邪魔する。
「・・・お願・・・い、ガトォーーー。」
「んんーーーっ!!!」
「あああっっっー!」
頃合いだと思ったのか、ようやくガトーが動き始めた。
鉱山の中、ダイヤモンドを掘り当てる人夫のように、あちこちにつるはしを入れて叩く。
感じる場所は知っていても、もっともっとたくさん見つけようとして。
「あっ・・・あああっ!・・・ガトーッ!!!」
焦らされ続けたコウは、早くも限界に達した。
震える情熱の先端から、快楽の白い印が溢れ出て、お臍の辺りを汚す。
飛びきれなかった残りが表面を伝わって黒い茂みの中に垂れていく。
「はあ・・・はあ・・・はあ・・・あぁぁ・・・」
「ふっ・・・。」
ガトーの方は、まだまだ終りそうにない。
余韻に目を潤ませるコウにお構い無しに、両手で腰を掴んで裏返し、背中を見ながらもう一度貫く。
・・・・・・・・・ガトーの存在感に圧倒されて、コウは萎えたばかりの自分のものが、また勃ち上がっていくのを感じていた。
コウが再び目覚めたのは、ベッドレストに置いてある電話の音が鳴ったからだ。
「・・・うーん、うるさい・・・ガトー・・・。」
だが、音は鳴り止まない。
こういう時はガトーがすぐ取るのに。・・・おかしいな、と思いながら電話に出る。
「ハロー・・・」
『・・・寝ていたな?』
あれ・・・この声は・・・
「ガトー???」
隣に寝ていたはずのガトーの声が受話器の向こうから聞こえた。
頭を回して部屋の中を見ると、たしかにガトーの姿はない。
「・・・え、なんで?」
『用があって外出したのだ。
だが、ホテルに戻っては、出発時刻に間に合いそうにない。
このまま直接空港に行く。
・・・おまえも早くそこを出ないと間に合わんぞ。』
「うわあああ?・・・ほんとだ!何で起こしてくれなかったんだよーーー!!!」
『・・・一人前の大人だろうが。』
うっ・・・
じゃあ、空港で、と電話を切ったコウが洗面所に駆け込む。
荷物は空港に預けたままなので、身支度さえすればすぐにホテルを飛び出せる。
髪を梳こうとした瞬間、
「・・・うわっ?!」
コウは太腿の間に、何かが流れ落ちるのを感じた。
朝の情事の名残り。
ガトーがコウに与えたもの。
暗いうちから、さんざんいじめられたような気がする・・・
眠気に負けずにシャワーを浴びるべきだったと後悔しながら、それを拭き取ると、
よけいなことまで思い出してさっと火照ったものを追い払うために、冷たい水に顔を浸した。
「・・・遅い!」
「ごめーん。」
空港にはガトーの方が先に着いていた。
・・・怒っているようで、その実、昨夜とは全然違うその態度に、コウはなんだか安心する。
搭乗手続きを済ませて、飛行機へ乗る。
やがて、ゴーッというエンジン音と共に、別世界のような日々を過ごしたヨーロッパの地を離れた。
・・・こんな休暇が過ごせたことを幸せに思って。
「・・・コウ。」
『Fasten』のサインも消えた頃、ガトーが静かにその名を囁いた。
「何?」
隣の窓側に座っているコウ。
ガトーは、がさがさとジャンバーのポケットから何かを取り出す。
・・・小さな白い包み。細いロイヤルブルーのリボン。
「これって・・・」
もしかして・・・
「・・・プレゼントだ。」
「あ・・・。」
コウの手が小さな箱をそっーと受け取る。産み立ての卵みたいに、そーっと。
「よく考えたら、おまえはクリスマスだとか誕生日だとか、なにかにつけてプレゼントをくれるのに、
私はなにひとつ贈ったことがないからな。・・・そのお詫びもかねて、だ。」
・・・・・・・・・『お詫び』で貰うプレゼントなんて、嬉しくない。・・・嬉しくない・・・けど、でも・・・。
ガトーからの初めてのプレゼントだ。
(これも仲直りの続きなのかな。)
「開けてもいい?」
ガトーが頷くより早く、コウはリボンを解く。
白い包みを外して、ビロードのカバーのついた箱を開けると、
・・・・・・・・・57の複雑な面が組み合わさって、至福の輝きを放つ透明な宝石。
小さな『ダイヤモンド』がひとつ。
小さくてもキラキラ光って、でも台もなければ枠もない。
ブリリアントカットのダイヤモンドの石、ただそれだけ。
「ガトー!これって?!!!」
「おまえが昨日、のぞき込んでた店のだ。0.3カラットあるぞ。・・・ぎりぎりな。」
興奮するコウの目を見つめながら、ガトーが言う。
「・・・だって、昨日あれだけ怒ってたのに!!!」
それで、晩飯もおいしくなかったし、あんまり眠れなかったし、なのに・・・
と気を使った分だけ、損したような気になる。
「文句言ってたくせに、名前はなんて付けたんだよ?!」
それでも一応は、コウが聞いた。・・・興味はあるのだ、やっぱり。
「・・・付けてない。」
「え???」
コウの怒りを削ぐように、静かにガトーが告げた。
「付けなかったのだ。
もちろん、これを買ったから、命名権は貰った。
私が付けない限り、その星にはずーっと名前がない。
・・・だが同時に、他の誰にも付けることができなくなる。」
それって・・・・・・・・・
「いつかそんな権利が売り買いされなくなって、
私が命名権を持っていることも、忘れ去られるほどの未来、
本当に星に名前が必要な人間が、付けてくれるだろう。」
「ガトー・・・・・・・・・俺・・・」
「おまえに、わかって欲しかったのだ。
私はどこで暮らしてもスペースノイド以外には成れん。
・・・まだ真っ白な、希望すらあるかどうかわからない、はるか遠い星々。
それは決して、地球にしがみついたままの人間のものではない。
そこに至る勇気を持つ人間だけが手にできるものだ。」
「ごめん・・・俺・・・そんなことまで考えてなかった。・・・ただ珍しくて・・・それで・・・」
「もう、気にするな。・・・これからおまえが自分で考えればいいことだ。」
「ありがとう、ガトー。」
コウは、穏やかな気持ちで、ダイヤモンドを見つめていた。
・・・昨日とはうってかわって。
「・・・・・・・・でも、どうして石だけなの?」
「・・・指輪とかが欲しいのか?」
「いや・・・全然。」
コウは首を振った。
「・・・・・・・・・他に、おまえに何を贈ったらいいか、わからなくてな。」
コウが元通りに包みなおして、今度は自分のポケットにしまってから、
たっぷり10分は過ぎた後で、ガトーがポツリと言った。
「それに、この先・・・私がいなくなっても、おまえに伝えたかったことを、
この硬いダイヤモンドなら、いつまでも消えずに覚えていてくれるかと。」
・・・・・・・・・その瞬間、コウはただ感謝した。
ガトーと生きて再びめぐり逢えたことに。
いつか俺がいなくなって、
いつかガトーがいなくなって、
でも名も無き星は、かわらず宇宙にあって、
小さな願いを込めたこのダイヤモンドも、きっと輝いているだろう。
いつか俺がいなくなる日がきても、
今日の日の記憶を抱えて往くだろう。
ダイヤモンド【Diamond】
現存する鉱物で唯一硬度10を誇る宝石の王様
膝に掛けられた毛布の下で、コウがゆっくりと左手を伸ばし、
ガトーの右手が、そっと重ねられた。
今日の日の記憶を、きっと・・・・・・・・・
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ほんとは、ケリィさん話が先に上がる予定だったのですが、
20000ヒット記念日なので、明るい話がいいかなっと(^^;)。
・・・それに、ジュエリーな季節だし(笑)。クリスマス・・・うーん、うーん<?(涙)。
ダイヤモンドは思いを運ぶ石、なんでしょう。ガトー様にとって特に(泣)。
管理人@がとーらぶ(2000.12.04)
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