大嫌い。
「・・・う。寒いー。」
喉の渇きを覚えたコウ・ウラキが、ベッドからそっと降りる。
隣で寝ている男を起こさないように。
季節は、もう冬。
セントラルヒーティングで部屋はけっこう温かいのだが、
足もとの寒さはどうしようもない。
たたたっと駆けって冷蔵庫を開けると、
ミネラルウォーターの瓶を取り出して、その場でごくごくと飲む。
はあ・・・おいしー。
だが、その冷たさに、
「くしゅんっ!!」
と、音ひとつ。
「・・・・・・・・・風邪、引くぞ。」
案の定、ベッドから低い声がする。
いつになったら、気配で目覚めることがなくなるんだろう。
と、コウはちょっと寂しく思う。
どれほどそーっと、ベッドを抜け出しても、
アナベル・ガトーは、必ず気配を感じとる。
コウはそれを気にし、コウが気にしてることを気にしたガトーは、
なるべく気づいてないふりをする。
お互い、これほど遠慮しながら、それでも、一緒に寝る関係。
とととっと、裸のコウが瓶を手にしたまま戻ってくると、
ガトーがベッドに半身を起こし、シーツをめくって迎えた。
「・・・寒かったー。」
ガトーの隣に座って、腰から下だけシーツにもぐらせて、残りの水を飲む。
ごくごくごく・・・
「ガトーもいる?」
コウは、隣の男に聞いた。
こくりと頷いたのを見てとると、いたずら心から、口に水を含む。
覆い被さるように身体をひねって、自分の唇とガトーの唇を合わせた。
ゴクッ・・・
口の端からこぼれた水が、ガトーの喉を伝って胸の上を流れ落ちる。
だが、その唇を離した途端、
「・・・・・・・・・冷たくない。水ぐらい好きに飲ませろ。」
・・・むっ。
そういうことを言いそうな男だと、わかってはいるけれど、・・・・・・・・・やっぱり、それはないだろう!
コウは冷えた瓶の底を、ガトーの胸にぴたっと押しつけた。
「・・・うっ。」
いくら厚い筋肉があるといっても、冷たいものは冷たい。
ひんやりとしたその感触に、ガトーが少し眉根を寄せる。
「はははっ。」
コウは楽しげに笑うが、
「うわっ!」
ガトーが手を伸ばして、コウの後ろ首を押さえ込み、
そのまま勢い良く、自分の胸にぴたりと抱えた。
・・・・・・・・・ぎゅうっー。
喋れない。
右の頬が左胸にべったり当たっている。
「冷たかったぞ。」
あまり冷たくなさそうに言うガトーの声が、
頭の上からも、押しつけられた身体の中からも響いてくる。
戦場では、憎憎しいのに、
ベッドで聞くと、たまらなく耳とその奥を湿らせる低くくぐもった声。
「ごめーん(もごもご)。」
抱きしめられたまま、口の自由すらないコウ。
「暖かくしてくれ。」
それは、ないよ、ガトー!
俺には、くどき文句にしか聞こえないよ。・・・その声じゃ。
一部がピクリと反応して、ガトーにばれないといいけど、とコウは思った。
動くこともままならず、そのままじっと胸の上で耐える。
とくとくとく。
なんだろう?
とくとくとく。
ほっとするような・・・
とくとくとく。
ああ、ガトーの心臓の音だ。
なんでこんなにゆったりとした気分になるんだろう?
・・・変なの。
・・・・・・・・・それは、
・・・・・・・・・きっと、
・・・・・・・・・ガトーが生きてここにいる証拠だから。
「・・・ガトー。」
「ん?」
「俺、ガトーの心臓の音が好きみたい。」
「・・・げほっ?!」
コウから奪った水を飲みかけだったガトーは、むせそうになる。
ガトーには、コウのこういう所が、異星人なみにわからない。
一人前だと認めたのは、戦場で、だった。
が、それ以外のコウを知れば知るほど、
子供のように、言いたいことを言うと思う。
言葉がまとまらなくても、とにかく口に出して訴える。
・・・普段のコウと戦場でのコウ。そのギャップ。
もっと理路整然と物事が話せぬか、と喧嘩になったこともあった。
もしも、自分だったら、
『コウの心臓の音が好き』
だなんて、とてもじゃないが言えない。
いや、そもそもそんなことを思いつくだろうか。
あまりにも違う、だかどこか似ている、私の・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・恋人?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・くそっ。
「私は、そんなことを言うおまえが嫌いだ。」
腹立ち紛れにガトーが言った言葉を、
ようやく腕の中から開放されたコウが、きょとんとして聞いている。
だが、次の瞬間、唖然としたのは、ガトーの方だった。
「・・・・・・・・・ガトーの嫌いは、時々、好きって意味のことがあるよね。」
「な!!!」
(どうしてそうなるのだ?!)
ガトーが反論する。
「嫌い、は、嫌い、だ。おまえこそ、言ってる意味がわかってるのか!!」
ええぃ、何をこんなに、怒っているのだ、私は。
・・・コウの意地悪な言葉が続く。
「俺とキスするの、好き?」
どうして、好き、と答えられようか。
「嫌いだ!」
「じゃ、俺と寝るのは?」
「嫌いだ!!」
この展開は、不利だぞ。
そして見透かすように、コウが訊いた。
「・・・俺のことは?」
「大嫌いだ!!!」
くそっ、口が立つのは、私の方だったはずだぞ。
ガトーはコウの頭を抑えると、
ぐいっと顔を自分の方に近づけさせて、そのまま口を塞ぐ。
コウは予期していたように、すんなりとそれを受けとめた。
生意気な舌を絡めとって、激しいキスをくりかえす。
・・・長く。
・・・・・・長く。
・・・・・・・・・もっと長く。
息をさせぬとばかりに、封じつづけた唇をようやく離すと、
コウの頬はすっかり上気し、その瞳は潤んでいた。
今日は一度、抱きあっているのだ。
残り火はすぐに元の勢いを取り戻す。
コウの顎から喉のラインに舌を這わせながら、
左手を伸ばして、コウのものに触れてみる。
すでにそれは、固く反りかえっていた。
「あっ・・・!」
手の中に包み込んで、軽く上下させただけで、
コウはせつなげに声を上げる。
太ももの間に腕をくぐらせて、後ろを探ってみると、
ガトーが残した体液で、湿ったままだ。
・・・。
愛撫もそこそこに、コウを腹ばいにさせると、
重たい身体を押しつけるようにして、ガトーはその中心を力強く貫いた。
「・・・・あっ!あぁっ!!」
コウは、この体勢が好きではない。
・・・ガトーの顔が見えないから。
それを知っているのに、ガトーはわざと後ろから攻めつづける。
「・・・嫌いだ。」
「・・・んんっ・・・っ!」
駄々っ子のように、囁く。
そっとコウの耳朶を甘噛みしながら。
「嫌いだと言ったら嫌いだ。」
「・・・うぅん、・・・ガトォ・・・!」
何度も、呪文ように。
「・・・・・・・・・・ふっ。」
「・・・ふー。熱い、や。」
事の後。
急に静かになる時間。
ベッドに並んで横たわる。
うつ伏せのままのコウ。上を向くガトー。
汗ばんだ身体、中まで熱くて。
・・・少しだけ慣れたセックス。
怖々から大胆に。
上手も下手も関係ない。
これしか知らないのだから。
「・・・コウ。」
ガトーが片手を広げた。
コウは、ひじをついて、ガトーの目を見る。
さっきと違って、ガトーの手は優しくコウの頭を、その胸板に持っていく。
心臓の音が好きなんだろう。
少し照れたように呟くガトーが愛しくて、いっそうその音を柔らかく感じとる。
とくん、とくん、とくん。
(心臓の音も、そう言ってくれるガトーも、どっちも好きだ。・・・たぶんね。)
また、怒られてはたまらない。
今度は、心の中でだけそう呟いて、コウゆっくりと目を閉じた。
とくんとくんとくん。
どきどきどき。
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ごめん、ラブラブ?
11月13日の小小説を書いて、気分がどっぷりになってたので、
とにかく生きているガトー様が書きたくて・・・
でも、私のガトー様じゃない気がするなあ。
次はもっと王子様にしたいです(笑)。
管理人@がとーらぶ(2000.11.11)
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