Valentine's Day II















・・・アナベル・ガトーは、甘いもの、が苦手だった。

いや、子供の頃は、ケーキも好きだったし、チョコバーもおやつによくかじったものだが、

大きくなるにつれ、人前で甘いものを食さないようにしてきた。

正確には、士官学校に入ったあとのことなのだが。



親友で悪友、・・・どっちかといえば後者の方の比率が高いんじゃないのかと思ってる、ケリィ・レズナーが、

ある日、士官学校の食堂で、叫んだ一言。



「あー、ガトー・ショコラ、は、甘くておいしいぜ。」



生徒たちで埋め尽くされた食堂が、一瞬静まりかえり、それからはじけたように笑い、

ケリィの横で、肩を震わせてるガトーの姿に、再びしんっとなった。



全然大したことないと思うかもしれないが、

何が気恥ずかしいかは、人それぞれ。



・・・どうやら、アナベル・ガトーにとっては、甘いとかおいしいとか、かわいいとかキュートとか、

そういうのが苦手な部類に入るようである。



で、それ以降、"ガトー"を連想させるようなものは、極力避けてきた・・・避けてきたのに、



「・・・・・・・・・『ヘル・ショコラーデ』だと?・・・なんだそれは?!」

「先輩が『2月14日にチョコレートをあげたい人No.1』に選ばれたのです。」

「有効投票数の8割を独占でしたよ。」

「もちろん僕たちも投票しました。」



それは、某バレンタインデーのお昼休み。

二年生代表の生徒会長と副会長が、食堂でくつろくガトーを見つけ、嬉しそうに話しかけてきた。



ありがとう、と言えばいいのか?・・・言えるか!!!



しかし、怒るのも大人気ないと、むっつりしてしまったガトーの横で、

「あっれー、俺は?・・・第二位ぐらいには、入ってるんじゃないのか?」

「・・・レズナー先輩の票はほとんど無効です。・・・脅かされたって報告がたくさん入ってきてますよ。」

「なんだと、こらぁっ!!!」

と席から立ち上がりぎみに、紫の髪をした生徒会長の襟元を片手で握る。



「あっ・・・よしてください。」

「こら、ケリィ。」

こんなイベントがあることを、ケリィは知っていたらしい。・・・まったく。

(・・・ふー。)



「というわけで、先輩っ。放課後、贈呈式を行ないたいんですが。」

「・・・はっ?」

すまんが、もういちど・・・、

「だから、放課後、贈呈式を行ないたいんですが。・・・我々後輩一同で。」

「・・・・・・・・・むむむ。」

さすがのガトーも、少し呆気に取られたようだ。



「つまり、ヘル・ショコラーデに、もちろんチョコレートを・・・」

「いらんっ!」

らしくもなく大声で、言い返してしまう。



「・・・でも、先輩。みんなが個別に渡したら、寮に帰るまで・・・いや、帰ってからも大変なことになると思いますけど。」

(・・・・・・・・・がっくり。)










「・・・・・・・・・で?、なんだこれはっ?!」

放課後、食堂の一角で、贈呈式なるものが行なわれた。

・・・大量のチョコレートが、ガトーの目の前に積み上げられている。

しかも鈴なりの後輩たちと、物見高そうな同級生達。



(・・・逃げようか。)

と思ったが、背後には面白そうな顔をしたケリィが控えている。

もし逃げ出したりすれば、喜んで止めにかかるに決まってるのだ。



「先輩、どれでもいいので、一個だけ食べてください。」

「・・・ここでか?」

「はい(にっこり)。」

金髪の副会長が、悠然と微笑む。



・・・・・・・・・赤いのやら、白いのやら、丸いのやら、ハート型のやら、カード付きや、リボンくるくるやら、

いったいどこで買ってきたんだ?と不思議に思うほど、色とりどりのチョコレートが並ぶ。



とてもじゃないが、ピンクのリボンにハートの包装紙のチョコなんて選べない。もっと地味なのは・・・(ゴソゴソ)。



「・・・がりりっ。」

「きゃーっ(一同)。」

数年振りのチョコレートの味は、ただ恥ずかしいだけだった。










・・・たぶん、その後の声。



「僕のチョコは選ばれなかったなぁ。」

「私、のもだよ。」

「・・・ちなみに、俺のもだ。」

「ということは、彼はまだ誰のものでもないってことだね。」

「まだ読みが浅かったか。くそっ。」

「先輩なら、無理矢理ものにしてるかと思ってましたが・・・」

「馬鹿野郎。こう見えても俺はデリカシーなんだ。」

「・・・デリケートの間違いだと思います(小声)。」

「とにかく、あいつは、甘くておいしいはずだ、絶対(聞いてないし)。」



悪友と生徒会長と副会長は、チョコでなんだか賭けをしていたようだが、ガトーには秘密だ。










・・・アナベル・ガトーは、甘いもの、が苦手だった。



寮に持ってかえってはみたものの、置き場所に困るほどのチョコレートの山を前に、

一生、苦手なままだな・・・

と、つぶやくしかなかった。










・・・で、適当に終わり。





(能天気なジオンですみません/笑)。










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