赤い夢















ザザザ・・・





筋状になった雲が流れる空と穏やかな波を浮かべる水平線の間に、

秋の太陽が沈んでいく。



青い筈の空も海も、落ちゆく太陽のあがきで、オレンジ色に染まっている。



・・・いや、今オレンジだった色は、

あっという間に、朱や紫や真っ赤な光にくるくると変化する。



それは、夜の帳がおりるまでのひとときのショーだ。



人工の自然では、決して有りえないもの。





『ワンワン!』

『あはは・・・はは・・・』



静かな浜が、急に喧騒に満ちる。

犬を連れた少年が散歩に来たからだ。



じゃれ合いながら、一人と一匹は砂浜の上をかけっていく。



水に浸かってはだめよ、という母親の注意を頭に浮かべながら、

それでも、その誘惑に勝てそうもなく。





『ワンッ!!!』

『・・・こらっ!・・・・・・・・・???』



そして、少年は、ぼくたちのほかは、誰もいないと思っていた浜に、

一人の男がいたことに気づく。





少し冷たい風の中を、すらりとした体格の男が歩いていたのだ。

なんだか気だるそうに。



薄いグレーのVネックのコットンセーターを素肌にまとい、

ストーンウッシュのジーパンは、裾がまくられている。



・・・それは、男が、波打ち際を歩いているからだ。



裸足で、踝に襲いかかる、生暖かい波の感触を受け止めながら、ゆるゆると足を進める。

一歩ごとに、やんわりと沈む砂も足裏を心地よく擽る。



本来は、薄い金色の髪も、

夕暮れの太陽の光を浴びて、ストロベリーブロンドのように見えるし、

透き通るような肌も、

いくぶん色味を帯びていた。





ザザザ・・・ザザザ・・・





男は、不意に立ち止まって、沖を見る。

眩しいはずの太陽も昼間の強さはない。



青い瞳をもった目をわずかに細めて、彼方に顔を向ける。










『何をしてるんだい?』



男の耳に懐かしい声がする。

16才の時から、知っている筈のその声は、いくつの時のものなのだろう。



少年の声、青年の声、一人前の男の声。



怒った声も、悲しい声も、震える声も、悔しそうな声も聞いた。



・・・・・・・・・だが、これは、優しい声だ。



「待ってるのだ・・・君を。」





ザザザ・・・ザザザ・・・ザザザ・・・





『どうして、いまさら?』



また、別の声がする。

あの怒りっぽい少年の声だ。



17才の声。

・・・それしか知らない。



ほんのひとときに、知って、知って、知って、会えなくなった。



でも、この声も、不思議と優しい。



「・・・寒くて。」





ザザザ・・・ザザザ・・・ザザザ・・・ザザザ・・・





『そんな姿は、見たくありません。』



きつい言葉と裏腹に、やっぱり優しい声。



薬で忠誠を尽くさせた、哀れな青年のもの。

・・・いや、哀れなのは、そんな代用品を必要とした男の方かもしれない。



「・・・ひとり、なのだ。」





ザザザ・・・ザザザ・・・ザザザ・・・ザザザ・・・ザザザ・・・





『・・・・・・・・・かわいそうに。』



紫の髪が柔らかだった、君。

それを青春と呼んでいいなら、確かにその時代を一緒に過ごした君。



・・・・・・・・・君が、はじまりだったな。

もう、遠い、昔。



「・・・あの頃から、ずっと。」










ザザザ・・・









『ワンワンワンッ!!!』

『だめだよ、そっちへ行ったら怒られるって!』



押し寄せる波に引かれ、海の中に入ろうとする犬を、

少年は必死で押し止める。



『ワゥーン!』

『あーあ・・・怒られるのは、ぼくなんだぞ。』



力で負けた、少年の声が、それほど悔しそうに聞こえないのは、

実は少年も、水遊びがしたかったせいだ。



『・・・・・・・・・あれっ?』



そうして、少年は、少し気を取られている間に、男が消えたことに気づく。

遮るものが何もないこの広い浜で、いつ男はいなくなったのだろう?



・・・ま、いっか。



だが、少年にとって、そんなことは大した意味をもたない。

一度濡れてしまったシャツを遠慮なく汚しながら、水遊びに夢中になる。



辺りが真っ暗になるまでに、遊び尽くしてしまおうと。










ザザザ・・・ザザザ・・・ザザザ・・・










『待っているのだ・・・・・・・・・私が殺してしまった君たちを。』















+ END +










戻る















どう考えても、小説では、ないですなぁ・・・(苦笑)。

星の屑月間中、チャットではガトー様とコウ以外の話もちょこちょこしてました(笑)。
もちろん、ガトー様もコウも大好きなのですが、そればっかりしかダメという状況だと、
余計に他の話が書きたくなるというか(^^;)。

というわけで、ちょっとずつネタを吐き出すでしょう・・・・・・・・・(笑)。

管理人@がとーらぶ(2000.11.18)











Copyright (C) 1999-2002 Gatolove all rights reserved.