鎖
 「ララァ・・・ん、ん!」
 隣で眠るクワトロ・バジーナが、さっきから何度もその名前を呟きながらうなされている。
 「ララァ・スン・・・や、めろ・・・」
 そんなクワトロの声を聞きたくないカミーユは背を向けて耳を塞ごうとする。
 (クワトロ大尉・・・)
 カミーユ・ビダンは敏感に感じ取っていた。クワトロ大尉の心に住むララァ・スンという名の誰か・・・
 それに苦しめられながらも、忘れることのできない何か・・・
 二人がこういう関係になってほぼ一ヶ月が過ぎた。その間、欲望の赴くまま、何度となく抱き合っている。大抵は邪魔の入りにくいクワトロの個室でだ。だが、ここがアーガマという戦艦の中である以上、行為が終わると早々にカミーユは自分の部屋に戻らなければならない。ベッドで寝入ったのは今回が初めてだった。
 (疲れていたのかな・・・)
 クワトロとのセックスには、感情が開放されたような爽快さと、どこまでも落ちていくかのようなドロドロした感情が入り交じる。終わった後はいつもグッタリするのだが、それでも自分の部屋には帰っていた。今日は疲れの上に気が緩んでいたのかもしれない。
 「う・・・うぅ・・・」
 (まだ、うなされている・・・いつもこうなのだろうか)
 初めて聞く声、そんなクワトロの姿を見ていると、いつまでも知らないフリを続けることはできない。
 (大尉を楽に・・・してあげたい)
 カミーユの心はそんな思いでいっぱいになった。
 大きく上下しているクワトロの厚い胸に手を置く。それは無意識の行動にすぎない。だがその瞬間、目の前で何かが炸裂したように、浅黒い肌にアイボリーのワンピースをまとった少女のイメージが拡がる。
 その顔は、はっきりとは見えない。
 (お前が、ララァ・スンか)
 返して・・・返して・・・返して
 (なぜ、大尉を苦しめる?)
 シャアはわたしのもの
 永遠にわたしのもの
 (何? そんな話があるか! お前は死んでるんだろ!)
 フフフフフフ・・・わたしに気づいたのは、あなたが初めてよ
 (ずっと大尉につきまとって苦しめてきたのか)
 だって、シャアがわたしを離さないんだもの
 (そんなことはない!)
 (大尉が好きなら、離れろ!)
 スキ−すき−好き−スキ−すき−好き−スキ−すき−好き−
 ”好き”という言葉から少女に別の男のイメージが重なる。それはカミーユも知っている男、地球に降りた時に出会ったニュータイプ
 アムロ・レイ
 の姿だった
 (アムロ? アムロ・レイか)
 (二人とも苦しめたんだな)
 (二人の間を行ったり来たりして!)
 フフフ、だって、アムロもわたしを離さないんだから
 (お前は卑怯だ! それならアムロのところへ行ってしまえ!!」
 シャアもわたしを愛している
 (何を!!!)
 (ここにいるのはクワトロ大尉だ! シャアじゃない、僕を愛しているクワトロ・バジーナだ!)
 「はぁ、はぁ、はぁ」
 呼吸が苦しくなったカミーユが大きく息を吸う。
 「ん、んん・・・?」
 カミーユの声に、クワトロがようやく目を覚ました。
 「どうしたカミーユ?」
 その様子を変に思ったのか、上半身を起こしてカミーユを見る。
 (わぁああ!)
 緊張の糸が切れたのかもしれない。大尉の胸に飛び込むと、しがみついて泣き出す。
 カミーユは、こんな風に涙を流してコドモのように泣く自分が信じられなかったが、止まらないものはしょうがなかった。
 理由は判らなくても、ナーバスになっているのは自分に責任があると思っているのだろう。
クワトロは優しく抱きとめると、少年の髪を撫でた。
 (大尉の全てを、僕のものにすることはできない)
 (切れない・・・鎖・・・なぜ、だ・・・)
 そう、わかってしまう・・・何かがカミーユの心を蝕み始めていた。
 「・・・大尉のこと、もっと感じたいんです」
 ようやく泣き止んだカミーユが、クワトロの首に抱きついたまま唇を重ね合わせる。
 「カミーユ、疲れてるんじゃないのか?」
 「いいえ、抱いてください」
 あらがえない純粋さがクワトロを誘う。カミーユの望むままキスを返すと、押し倒すように体を組み敷いた。互いの指が唇が相手の身体を這っていく。
 「あ・・・・・・」
 その行為に没頭していく二人は涙を理由を忘れた。
 ふふふふふふふふふ・・・・・・・・・
+ END +
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PS版逆シャアをプレイした人なら、元ネタがわかりますね。
あのゲームの一番良かった点はベッドで裸で眠るシャアの姿が拝めたことでしょう(ありがたや〜)
ハマーンでもレコアでも消すことができなかったララァの影をカミーユがとうとう消したんだけど、
カミーユはそうは思えず苦しんでいるというのが、私的クワトロ×カミーユですね。
シャアは来る者は拒まず、気に入った人はさらに口説くタイプ(笑)に思えるのでカミーユは大変だろうな・・・
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