アウドムラ・0087
会いたいと思ったことなど、一度もなかった。
この7年の間・・・
「アムロ君、ちょっといいかな」
そう言ってシャア・アズナブルがアウドムラの中のアムロ・レイに与えたれた一室のドアをノックしたのは、眠りにつこうとするアムロがベッドの上で、回りの思惑から逃れようとでもするかのように、薄いシーツをすっぽりとかぶって横になった直後のことだった。
今日の昼、アムロはシャア・アズナブルと劇的な再会を果たしたばかりである。
ケネディ宇宙空港を飛び立ってヒッコリーのシャトル基地へと向かうアウドムラにはクワトロ・バジーナと名のるシャアが乗り合わせ、カツ・コバヤシに導かれたアムロはそのアウドムラに合流しようとしていた。
偶然か必然か今はまだわからぬ運命が二人を引き合わせたのだ。
7年ぶりに会った宿敵・・・シャアはかつて少年と呼べたアムロの見かけだけは大人になった姿を、言葉に出来ない思いで見つめ、アムロはかつて追いかけ、追いすがられたシャアという男から何故かギラギラしたものが抜け落ちてしまった気がして、間違いなくシャアだとわかっているのに、これが本当にあのシャアなのかという思いを捨てきれずにいた。
「・・・なんだ、シャア。俺は疲れてるんだ。」
口先だけではない。軟禁同様だったシャイアンの家から脱出し、アウドムラに向かう途上で戦闘中のアッシーマーに遭遇し、それまで乗ってきた輸送機をぶつけるという離れ業をやってのけたアムロは心底疲れていたのだ。
この7年間、軍勤務をしていたといっても、それは平和で安穏とした生活であり、かつてのホワイトベースでの激闘には比べるべくもない戦いでも、アムロの神経は昂ぶらずにいられなかった。
だが、アムロの拒絶を匂わす言葉にもかかわらず、シャアはその部屋に足を踏み入れた。
この艦が準戦闘状態にある以上、個室といってもロックの習慣はない。
赤い上下に黒いサングラスをしたシャア。その服は何故か腕の部分が剥き出しになっている。
ドアの開く音にようやくシーツから顔だけ出したアムロは、
(赤か・・・そんなものを、着てるんだな)
いくらクワトロ・バジーナと名乗っていても、本人がシャア・アズナブル以外であることを拒否しているのではないか・・・とぼんやり考えた。
「・・・私は、本気だ。一緒に宇宙に上がってほしい」
アムロのベッドに近づくとその側に立って、シャアはいきなり切り出す。
「そのことなら、もう」
(昼間、話は済んだはずだ)
アムロはそう思った。
数時間前、ここアウドムラのMS格納庫で二人きりになった時、
「何故、地球圏へ戻ってきたのだ」
と問うアムロに
「ララァの魂は地球圏に漂っている。火星の向こうにいないと思った」
「自分の殻の中に閉じこもっているのは地球連邦政府に、いやティターンズに手を貸すことになる」
「籠の中の鳥は鑑賞される道具でしかないと覚えておいてくれ」
と答えたシャア。
だがそのシャアの言葉に、アムロはそれ以上言い返せなかった。
(簡単に言う。忘れたのか、あなたがしたことを。宇宙で何があったのかを・・・)
と思っていながら。
「もう、よしてくれ。俺は・・・怖いんだ」
シャアに対して「怖い」という、自分の弱さを認めるような言葉が口をついて出たことに、アムロは我ながら驚いていた。
7年前、崩壊していくジオン軍宇宙要塞ア・バオア・クーの一室で剣を重ねて戦ったシャア・・・ララァを死に追いやっておきながら、仲間になれとほざいたシャア・・・そのシャアに対して怖いといってしまった・・・そう考えると、今の自分の態度が急に恥ずかしくなった。
昔、ホワイトベースにいた頃も口うるさいフラウ・ボウの言葉から逃げるためベッドに潜り込んで背を向けたり、ブライトの方針にふてくされて、やっぱりベッドにこもっていたのと同じことをやっていると気づいたからだ。
アムロは上半身を起こすと、身体をシャアの方へ向けて、その顔を見た。
「怖い・・・だと?」
シャアの眼には怒りの色が浮かんでいるようだった。かつてのライバルのそんな姿を見たくなかったのだろうか。
それきりシャアは黙ってアムロを見つめている。アムロも視線を外したら負けだとでもいうかのように見つめ返していたが、やがて本当に負けでもしたかのように顔を反らした。シャアの強い瞳の色になんだか居たたまれなくなったのである。
「君は忘れているだけだ。あの宇宙で起きたことを・・・それは恐怖だけではなかったはずだ」
「何を!誰のせいでララァが死んだと思ってるんだ!!」
自分だけが納得しているかのように語るシャアの言葉にアムロは声を荒げて言った。
「あなたのせいで・・・ララァは・・・」
「そして君のせいでもある」
「!!!」
はっきりそう告げられるとアムロは俯いてしまった。
そう、本当はわかっていたのだ。
それは誰のせいでもなく、その時、そこで、そういう風にしか巡り会えなかったことを。
ララァがシャアを、アムロを、そして全てを許していたことを。
ただ7年という歳月の重みがアムロの心に圧し掛かり、それを遠いものにしていたことを・・・
ふと、視線の先の影が動く。
顔を上げるとシャアの身体が目の前にある。
何事かと思う前に両肩が、がっちりとシャアの手に押さえられベッドの上に倒された。
「な???」
(に・・・・・・!!!)
言葉が続く前に口をふさがれた。それもシャアの唇によってである。
あまりのことに一瞬、抵抗するのを忘れたが、すぐに全身で押し返そうとする。
しかし、どうあがいてもシャアの方が体格で勝っている。細身だがしなやかなその身体は堅い筋肉に覆われ、アムロの力では振り切ることができない。
アムロにとって、かなりの長い時が過ぎて、ようやくシャアが唇を離した。だがその身体はしっかりと抑え込んだままである。
「何を・・・するんだ!」
ようやく自由になった口で叫ぶアムロ。
「君の恐怖を過去のものにしてやる。それだけだ・・・」
「バカな!」
もがくアムロに、もう一度シャアの全身が圧し掛かる。
手馴れているのだろうか?いくら小柄といえども男が必死で抵抗しているのに、あっさりとアムロの首筋に顔を寄せて、唇と舌を這わせはじめるシャア・・・
「やめろ!シャア!!」
それは端から見れば、かなり滑稽だった。興奮しているのはアムロの方で、シャアはいたって冷静に見えるからである。
「やめてくれ!!」
「・・・・・・」
だが、シャアは無言でアムロの肌を舐め続ける。不運にも、ベッドに入る際、白い半袖のアンダーウェアとブルーのトランクスしか身につけていなかったアムロは、むきだしの部分に唇の跡をつけられていった。
「くっ・・・やめろおぉ!・・・それでもララァを愛していたのか?」
その言葉にやっとシャアが顔を上げる。
「俺になんでこんなことができるんだ?」
(こんな男のために死んだのか、ララァ・・・くっ!!)
そう思うとたまらなくなって、アムロは目の端にうっすらと涙が滲ませる。
だが、次にシャアが言ったのはアムロにとって許しがたい暴言だった。
「・・・ララァはわかっているさ」
「わかるだとぉ?!」
だが反論の言葉も空しく、シャアは行為を再開する。左半身を上手に使ってアムロの自由を奪いながら、あいた右手をトランクスの内側にすべり込ませた。
「???」
そこまでするのかとアムロは驚きを新たにする。だが、中にあるものをギュッと握られると、さすがにゾクリと悪寒が走った。
シャアの手は遠慮なくそれを扱き始める。だが何度その手が往復しても、反応を示さなかった。
「無駄だ、よ。シャア。男相手に勃つわけないだろ!」
組み敷かれたままでバカにしたようにアムロは言う。
「そうか・・・なら」
(これならどうだ)
と言わんばかりにシャアの手がさらに奥へと伸び、きつく閉まった門へと向かった。
「!!!うわっ!」
ためらうことなくその指を門の内へくぐらせる。さすがのアムロも未知の領域を侵してくるそれに上ずった声をあげてしまった。
「やめて・・・くれ、たのむ・・・」
男に犯されるかもしれないという強烈な現実の前に口調は懇願するものに変わっていく。
「・・・・・・」
しかしシャアは黙ったまま、指による蹂躙を続けた。女ではないのに身体を内側から抉られる・・・普通の男ならそれがどんな気持ちなのか考えたことがないだろう。アムロも同様である。それだけに与えられたショックは大きかった。
「ああぁっ!」
しかもそれが今までにないほどの刺激をもたらすものだとしたら、さらに受ける衝撃は大きいだろう。今のアムロがまさにそれだった。
(こん・・・な)
現にアムロの抵抗とは裏腹にアムロのモノが堅くなり始めていたのだ。それがシャアに伝わる気恥ずかしさに震えながらも、アムロは反り返っていくモノを抑えることができなかった。
当然その動きはシャアにもわかっている。
シャアはエゥーゴの赤い制服の内から、片手で器用に自分のモノを取り出した。
「!!!」
アムロは一瞬の恐怖に慄いた。視線の先に見えたシャアのそれが、自分が女を前にした時になるのと同じに堅く尖っていたからである。
(やられる!!!)
男を相手にしても、シャアは不可能ではないのだ。
再びアムロは残った力を振り絞って抵抗した。だがいくら動いてもシャアの指が抜けない以上、アムロはその感覚を心のどこかで意識し続けなければならない。
「大人しくしろ!」
ようやくシャアが荒いだ声を出した。
「・・・身体の力を抜くんだ。そうすれば思ったほど痛くはない」
「冗談じゃない!!」
シャアはゆったりした仕草でくアムロに顔を寄せた。
「こっちも冗談じゃないさ」
「あ・・・」
アムロは急に身体から力が抜けていくのを感じた。どうしてだろう。シャアの瞳を覗いた途端に気力を失ってしまったのだ。
そこには、さっきまでの怒りと違い、優しさが浮かんでいるような、そんな気がしたからだった。
(この男は俺に何を求めているんだろう)
ふっとそんなことを考える。もちろんこの状況で求めているものは誰が見ても身体だと思うだろう。だが本当にそうなのか?
そんな一瞬の思考がアムロの抵抗力を弱めた。その隙にシャアはアムロのトランクスを剥いで身体をその足の間にすべり込ませる。
右手を添えたままアムロの後門にそのモノを押し当てた・・・
「うわあああぁぁぁ!!!」
アムロの悲鳴が小さな部屋に響いた。その激しい痛みがアムロを現実にひき戻す。
「いやだぁ。やめてくれ!!」
必死に訴えるアムロを無視してシャアは完全に彼のモノを埋没させると、静かに腰を動かし始めた。
「いた・・・い」
「やめろ・・・たのむ・・・」
「シャア・・・」
「もう、いいだろ・・・やめて、くれ・・・」
アムロの叫びだけが部屋を埋め尽くす。だが決してシャアは攻撃の手を緩めなかった。さっきの指とは比べ物にならないほど、大きなソレがアムロの内奥で暴れ回っていた。
・・・そのまま長い時間が過ぎた。いやほんの数分が過ぎただけなのか、とにかくアムロはあることに気づいた。
(アムロ・・・)
それはほんの小さなことかもしれない。だが、シャアが泣いているような気がしたのだ。
苦しい中で、目を開けてシャアの顔を見てみる。けれど、その顔には汗こそ浮かんでいるが、涙の跡などない。
(アムロ、私は・・・)
理解するということは難しいことだ。我々にとっては。だがニュータイプと呼ばれる人々にはどうなのか。
相互理解に必要なのは言葉でも時間でもない人々・・・
アムロはこの7年間一度も会うことがなかったシャア・アズナブルという男をその一瞬に感じ取ってしまった気がしていた。
彼がクワトロ・バジーナと名乗らなければならなかった訳を。
彼がエゥーゴの一員として戦わなければならない訳を。
そして、彼が自分に何を求めているのかを。
・・・アムロがそう感じた瞬間、シャアも同じような思いを抱いていたに違いない。口の端にうっすらと笑みを浮べてアムロを見つめていたのだ。その顔はどんなに美しい女のものよりもさらに上をいく美しさに見えた。
アムロはすでに抵抗をやめてベッドの上に放り出されていた腕を、ゆっくりとシャアの背中に回して、しがみついた・・・
「あああぁぁぁ!!!」
今や、アムロの身体の中は燃えるような感覚に満たされており、それを早く吐き出してしまいたかった。
「くぅっ!!!」
シャアもようやく頂点が近いのだろう、低く抑えるような声を上げている。
男に抱かれているとかシャアに抱かれているとか、そういった意識はすべてアムロの中から消え去っていた。
ただ相手から伝わってくる何かが彼の心に安らぎに似たものを与えてくれている。その事実を彼は躊躇わずに受け取るだけだ。
「ああぁっあああ」(シャア!)
「うう!くっ」(アムロ!)
二人はほとんど同時に達して、それぞれの快楽の印をありったけ放出したのだった。
・・・アムロはカツの呼び声に目を覚ました。なんでもカラバの連絡員がアウドムラについたとか言っている。
なかなか覚醒しないまま隣に手を伸ばす。そこにはさっきまで男の身体があったはずだった。彼を蹂躙し、彼を満たし、彼を解放した男の身体が・・・だが手は何者にも触れなかった。
あれは、幻だったのか・・・
だが喋り続けるカツがうるさくて、ようやく身体を起こしたアムロはかっと全身が熱くなるのを感じた。目に入った自分の腕や腹に赤い印が見えたからだ。
(キス・マーク!じゃあ、やっぱり・・・)
カツの視線を避けながら、アムロはシャワールームに飛び込んだ。
熱いシャワーを浴びて、何だか訳のわからぬものを流し去ろうとする。
ズキッと、どこかが痛んだ。それは間違いなくシャアが自分の中にいた証だ。アムロは身体が震えるのがわかった。
それが何を感じての震えなのか、今は考えたくない・・・
無視されて怒るカツを放ったまま、ひたすら身体を洗うしかアムロには出来なかった。
アムロがエゥーゴのMSリック・ディアスを駆り、シャアを宇宙へと還したのは、数日後のことである。
会いたいと思ったことなど、一度もなかった、はずだ。
この7年の間、たぶん、きっと・・・
+ END +
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この話は「キリマンジャロの夜」に続くシャアとアムロ第2弾です。
しかし時間的にはこちらが"初めて物語"になってます。
シャアはあの通り自分勝手で思い込みの激しい男(笑)なので、ふられても全然自覚がないだろうなぁと思って書きました。
かわいそうなのはそんな男に惚れられた(掘られた/笑)アムロ君ですね。
これは、アムロに純愛を捧げているのに、ムリして読んでくれてる"こーらぶ"さまに贈ります。要らなくても(ごめんなさい!!)
後日談:
こーらぶさんから"シャアぶっ殺す"という感想をいただきました(爆笑)
背中に気をつけてね。シャア・アズナブル!(笑)
管理人@がとーらぶ
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