「・・・サギだ。」

 パタンと閉まった玄関ドアを見つめながら、浦木攻は呆然と立ち尽くしていた。





 「・・・・・・・・・アナベルが、」

 たった今、『お引越しの挨拶代わりの粗品』として、新しい隣人が携えてきた『パワーが違う!白さが際だつ!!ザクト洗剤』セットを、両手で受け取ったままの格好で。





 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・男、だったなんて。」

 あれは、もう10年も前。ほんわかとした思い出になっていたはずの記憶。





 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・俺の10年間の思いは、」

 新学期、高校二年生になったばかりのコウ。朝晩の寒さも緩んで、やっとできた後輩相手のサッカーの練習も楽しくて、毎日が新しい、そんな日々。・・・・・・・・・そうだよ!ファーストキスの相手じゃんか!!!






 「どーしてくれるんだーーーっ!!!!!!!!!」















セカンドラブ















 浦木攻(うらきこう)の身長が、今より60cmも低かった頃、隣の家に一年ほど、外国人の親子が暮らしていたことがあった。



 背と鼻が高い父親と、目と声の大きな母親と、お人形のようなこども。

 ・・・・・・・・・初めて見た時は、この辺では珍しいその容貌にびっくりし、妙に気になって、目が離せなくなって、気づいた時には、いつも後を追っかけていた。

 銀色のきらきらした髪を腰まで伸ばして、白い顔に紫色の瞳と桃色の唇をした、お姫さまみたいな・・・それが『アナベル』だった。唯一の欠点は、日本語がほとんど喋れないことだが、コウには大した問題じゃなかった。5歳のコウは喋るよりも動く方が得意な子どもだったのである。

 二人でよくサッカーをした。家の前の傾斜のついた道路で蹴るボールは、ちょっと油断するとコロコロと転がり落ちて、拾いにいくのが大変だったけれど、『はい。』とアナベルの手から渡されるボールは、特別に思えた。

 ・・・とにかく、一緒に居られれば楽しかったのだ、コウにとっては。





 「あーーー、やってらんねぇ。」

 自室のベッドに寝転んで、天上を睨みながら、コウは昔を思い出そうとしていた。

 いや、正しくは思い出そうとしなくても、次々とあの頃の記憶が甦ってくる。どうしてだろう、さっきまでは、輪郭のぼやけた思い出に過ぎなかったのに。10年振りにアナベルに会ったせいで、もやもやした、もう遠い出来事になってしまっていたことが、次々に形を取って現われる。





 「・・・・・・・・・たしか、6つ違いだったから・・・げっ、22歳かよ・・・おっさんだな。」

 子どもにとっての6歳といえば、かなりの年齢差のような気がする。だが当時のコウには何の障害にもならなかった。なにせコウの初恋は幼稚園の先生だったのである。その頃から多分に年上が好きだったらしい。・・・今の彼女も2歳上だ。





 「そうだよ、・・・紫門先生、どうしてっかなー。」

 コウの生まれて初めての失恋は、アナベルと出会う、一週間ほど前。

 春休みも終わり、年長さんになって、幼稚園に行った日、大好きだった先生がどこにもいない。新しい梅組の先生に聞けば、『紫門先生は、結婚したのよ。・・・だから幼稚園も辞めちゃったの。』って言う。

 「『辞めた』って?」

 「・・・もう、幼稚園には来ないってこと。」



 寂しくて悲しくて、家に戻ってからお母さんに言った。『結婚ってなに?』

 「・・・そうねぇ。お父さんとお母さんみたいに一緒のお家に住んで、一緒にご飯を食べて、・・・そういうことね。」

 「だったら、ぼくも先生と結婚する!!!」

 「・・・だめよ、結婚は一人としかできないの。・・・遅かったわね。」



 ・・・・・・・・・その時、コウは決心したのだ。こんど好きな人ができたら、真っ先に結婚するんだ!!!





 「げーっ・・・なんだかイヤな記憶が・・・」

 白とブルーのスウェットの上下に、乾ききってない黒髪からは、ほんのりシャンプーの香りが漂う。思わずベッドの上で身悶えするコウ。だってさぁ・・・



 「結婚してくだしゃい!」

 ・・・その言葉に、アナベルは『はい。』と言った。あの頃のアナベルは、『はい』と『コウ』しか日本語を知らなかったからだ。



 「うわー・・・やばいよ。アナベルも覚えてるんだろうか。・・・・・・・・・ん、なに言ってんだ、俺。・・・だいたい覚えてたって関係ないだろう?!ガキの言ったことなんて。」

 あまりにも野郎らしくなった容貌には、どこにも美少女風だった面影はない。



 「・・・だいたい、なんで女だと思ってたんだ?!」

 長い髪に、そそとした仕草・・・白い手足。・・・くっそっー、悪いのはおまえだろーーー、アナベル!!!



 ・・・・・・・・・とにかく、これ以上、何も考えたくなくなったコウは、がばっと布団を引っかぶって、眠ろうとした。家の向こうの街灯の明かりに、咲き初めの染井吉野がほんのりピンク色を映す、そんな季節だった。










 翌朝、コウはいつもの通り、朝練に間に合うよう、自転車を飛ばして高校へ向かおうとした時、ばったりと出会ってしまった。・・・問題のプロポーズの相手に。



 「おはようございます。」

 と、なめらかな日本語で挨拶をされると、無視したまんま行こうかと思っていたコウも、跨りかけたサドルをあきらめて、ハンドルを握ったまま、一緒に歩いてしまう。



 「・・・・・・・・・おはようございます。」

 駅へと向かう道、電車でどっかへ行くんだろうか。・・・と、ふと見れば、アナベルのおでこの真ん中が、赤くなって・・・しかも盛り上ってる?



 「あ・・・いや、ゆうべ鴨居にぶつけたのだ。勝手知ったる家のつもりだったが、あの頃はこのぐらいしかなかったしなぁ・・・。」

 コウの視線に気づいたアナベルが、おでこをさすって、それから手振りで、このぐらいと当時の身長を教える、・・・たぶん150cmくらい。流暢な日本語がすらすらと出てくる姿は、昔のアナベルの姿と重ならない・・・重ならないけど、



 「ぷぷっ。」

 昨夜は、あまりにガタイのいい男が現われて、『アナベル・ガトーです。また隣に引っ越してきました、よろしく。』なんて言うもんだから、落ちついて観察する暇もなかったけど、なんだか感じのいい奴・・・。



 「・・・まだサッカーが好きなのか?」

 「あー、覚えてるんだ、俺のこと。」

 「おまえは、忘れたか?・・・まぁ、小さかったからな。」

 (どっきん!)

 っと、コウは慌てる。覚えてるけど・・・まさかあの話じゃないよな。それにしても日本語が全然上手になってるなぁ、どこで覚えたんだろう。



 「・・・そんなことないさ、・・・突然引っ越しちゃって、驚いたんだから。」

 「ああ・・・ちょっと父親の都合でな。・・・そうか覚えてるか。」

 にこっとアナベルが笑った。その笑顔は、たしかに男のものだったが、どこか昔を彷彿とさせる暖かい、懐かしい笑顔だった。紫のきれいな瞳も、薄い唇も、やっぱり面影がある。



 「髪は・・・短くなったんだね。」

 「ん?・・・あれは、母親の趣味でな。うっとうしくてならなかったのだが・・・」

 とりとめのない話が続く。もしかしたら、昔もこういう風に、ごく自然に一緒にいたのかもしれない。ただ言葉が通じなかっただけで。



 駅まで15分の道のり。ドイツに帰ってからも日本語を勉強したこと、仕事で日本に来たこと、3ヶ月の予定で滞在型の旅行ルポを書かないといけないこと、隣の家を借りたのは、もともと父の知人の家だったから、日本に来ることが決まった時、頼んでみたこと・・・つらつらとそんな話をした。



 「やっばぁー、遅刻だぁっ!!!・・・じゃぁ、また!!!」

 「ああ、また。」

 広電己斐の駅舎前で、コウは慌てて自転車に乗る。遅刻したら、まずグランド3周させられるけど、しょうがない。さぁ飛ばそうとばかりペダルを蹴る。見送るアナベルの肩にかかる銀髪が、春の風を受けてゆらゆらとなびいていた。










 「・・・・・・・・・そういえば、」

 二人はときどき、アナベルの家でデート(?)するようになった。・・・主には、観光ガイドに載ってないような『面白い場所』の情報をコウから教えてもらうためである。コウの方は、突然できた兄貴みたいな存在が、なんとなく心地よかった。



 「最近、2号線沿いに『夢の城まであと5km』、『夢の城まであと4km』・・・と、たくさん看板を見るのだが、あれは何だ?・・・日本の城か?・・・私のメモにはないのだが・・・」

 「・・・・・・・・・げほっ?!」

 『夢の城』について、説明していいかどうか迷う。だってそれって、

 (・・・・・・・・・ラブホテルなんですけど。)



 アナベルの家の1階は、LDKが全てぶち抜きの広い造りになっていた。ソファに寝転がって、ぼーっと週刊マガジンを読んでいたコウは、まあ、相手は自分より年上の兄ちゃんなんだからいいかと、顔を上げて言う。



 「ラブホテルの名前・・・だよ。」

 「ラブホテル?・・・とは???」

 それだけ日本語が流暢に喋れるのに、知らないのと、コウは説明しようとした。・・・久保のシュートの行方が気になるけど。・・・漫画の話。



 「・・・だから、彼女と行って、エッチとかすんの、・・・そういう場所だよ。」



 「・・・・・・・・・それは、おもしろいな。」

 ひどくマジメな顔で、ノートパソコンを叩いていた手を止めて、アナベルが言うので、コウは『はて?』と思った。

 (・・・おもしろいといえば、おもしろいけど。あーっ、うまく説明できないよー。)



 そして、次のセリフは唐突だった。



 「どうだ、行ってみるか。」

 「えええーーーっ???」

 「要するに、カップル向けの低価格ホテルなんだろう?・・・そいういうのは私の書く記事のネタにぴったりなのだ。」

 「・・・・・・・・・。」

 野郎と行く場所じゃないよと思ったが、見てみたい気がする。・・・もしかして、もしかしたら、彼女と行っても焦らなくてすむように、いい予行演習になるか・・・との思惑がもたげた。



 「次に練習が休みなのは、いつだ?」

 「5月の第4日曜。」

 「じゃ・・・その日に、行ってみよう。」

 葉桜の緑が夏草の青さに負けはじめる季節の二人の約束だった。










 「なぜ、部屋の中にすべり台やブランコがあるのだ?」

 それが、ラブホテルに入ってからのアナベルの第一声だった。・・・ちなみに、自転車で入るにはとても恥ずかしい場所だとコウが一生懸命説明して、二人はタクシーでやってきた。・・・タクシーの運転手が、ちらちらとバックミラーをうかがっていたが、それが気になったのはコウだけで、アナベルは平気なようだった。



 「だからさー、女の子をリラックスさせて・・・だね・・・たぶん。・・・あああっ、うまく説明できねぇ。」

 「ふむ・・・、私には小さいな。」

 「・・・あ・・・たりめーだよ。」

 すべり台の台座に腰を落とそうとするアナベルだが、いかんせん195cmの体を持て余すようだ。



 「こっちは、ジャグジー付きの風呂。」

 「ゴージャスだ。それでこの料金なら、普通のホテルに泊まるより、良いではないか?」

 半袖の白いTシャツに、ストーンウォッシュのGパン、二の腕の黒さが、そのまま元気の良さの示しているようなコウが、説明して回る。・・・一応の予備知識はあるのだ。なんたって16歳の高校生なんだから。



 「・・・うーん、でも、車じゃないと不自由な場所にあるから、外国の旅行者には不向きだろう?」

 「そうか、モーテルに近いんだな。」

 日本に来てから揃えた、アナベルの夏物のワードロープは、とてもシンプル。白地にブルーの大きなチェック柄のシャツ。濃いブルーのストレートタイプのGパンは、イヤミなほど長い足に似合っている。



 「・・・コウ。日本人というのは、必ず二回、セックスをするのか?」

 「いや・・・そんな・・・ことはない(はず)。」

 ベッドサイドの棚に、目につくように置かれたふたつのコンドーム。もっと必要なら、フロントに連絡すれば、貰えるはずだが、さすがにそこまでコウは知らない。



 「おお、これは!・・・電子レンジに、冷凍食品に、栄養ドリンク・・・すばらしいパーフェクトなホテルだ!!!」

 「あ・・・いや、だから・・・。」

 あまりに感激しているアナベルに、いちいち説明するのがばからしくなってくる。・・・パシャッ、パッシャとアナベルのデジカメのシャッターの音が、部屋のあちこちに響いた。

 もうアナベルは放っておいて、冷蔵庫からポカリスエットを取り出す。プルトップを引いて、ごくりと喉を潤した。もうずっと炭酸を飲まない生活をしている。その方が疲れにくい体質になると聞いたので。・・・こんな風に、コウもまじめにサッカーに取り組んでいるのだ。





 「・・・・・・・・・?」

 コウはポカリを飲みながら、窓辺で外を見ていた。ここは瀬戸内海のそば、・・・ふっと振りかえって見ると、いつの間にかベッドの上に座ったアナベルが、手招きをしている。何の気なしに近づいたコウだが、



 「ここまで来たら、使い勝手を試してみないと。」

 「・・・・・・・・・はぁ???」

 思いっきり、マヌケな声を上げる。



 「・・・あんたホモ?」

 やっとのことで、コウの舌がそれだけを吐き出した。・・・まさかね・・・そんな。



 「だいたい私に結婚してくれといったのは、君だろう。」

 否定しないアナベルに、コウは頭がくらっとする気分。・・・おい、ちょっと待てよ!!!



 「・・・日本語わからないんじゃなかったのか?!」

 「わからなかったよ。だけどおまえが、あまりに真剣な顔をしていたので、後で父親に聞いたのだ。」

 (・・・・・・・・・聞かなくてもよかったのに。)

 がっくしと、肩を落として、コウがベッドの端っこ座った。



 「そしてその後、私にキスを・・・」

 「わあああぁぁぁ!!!」

 アナベルに最後までその言葉を言わせまいとするかのように、コウが大声を出した。・・・・・・・・・そうそれだよ、一番思い出したくなかったこと。





 「結婚してくだしゃい!」

 ・・・その言葉に、アナベルは『はい。』と言った。あの頃のアナベルは、『はい』と『コウ』しか日本語を知らなかったからだ。喜んだコウは、椅子の上に立って、思いっきり身を伸ばした。アナベルはじっとしていた。・・・それがコウのファーストキスだった。





 「家族以外では、おまえが初めてだったのだぞ。」

 「・・・俺だって、初めてだったのに、くっそおぉぉぉ。」

 大きな体が、遠慮なしに、コウに覆い被さってくる。



 「ちょ・・・ちょっと、ま・・・んんっ。」

 10年振りの2度目のキスは、アナベルから、強引に。らくらくとコウの両手首を押さえ、ふかふかのベッドの上に倒す。暴れる足を体全体で動けないようにする。



 「ん・・・んんんっ。」

 息苦しさに、とうとうコウが唇の力を緩めると、すっと舌が入りこんできた。湿った感触に、背中がぞくっとする。アナベルの舌はコウの舌を強引に絡めとって、ぬめぬめと巻きついてくる。・・・頼む、やめろってば・・・だが、そんなに気持ち悪いものでもなくて・・・いや、ヤバイってば!

 まるで、コウが音を上げるまで許さないとでもいうように、アナベルはキスを続けた。舌を伝わって流れ込む唾液が、催淫剤のようにコウの頭をぼーっとさせる。体の一部が熱くなって、へんなカンジ。・・・・・・・・・だから、相手は男だってば!!!



 「・・・責任を取ってもらうぞ、と。」

 やっと顔を離したアナベルが、高らかに宣言する。脱力して寝転んだままのコウは下からその顔を見上げていた。・・・あの時は、俺が悪かったです。・・・だから勘弁して。

 ・・・そう言いたいのに、なぜだか体が動かない。



 「ふむ・・・」

 アナベルの手が、いきなりコウの中心に伸びてきた。かつんと硬い感触が伝わる。ちゃんと勃っているのだ。安心して、ジッパーに手を伸ばすと、さすがにコウがびくっと逃げようとする。アナベルは、もう一度、覆い被さった。身長差は軽く20cm。体重は20kgどころじゃない。コウは動けなくなる。



 「やめてよ・・・頼むから。・・・俺、男なんか好きじゃない。」

 「でも、感じてるではないか。」

 アナベルに言われるまで、コウは気づかなかった。・・・が、たしかに、アレが痛い。血液がそこに集中して、Gパンとトランクスを内側から、突き上げている。



 (・・・・・・・・・!)

 ・・・コウは、我が身が信じられなかった。・・・だって、男だろ?・・・男なんだってば、どうしたんだよ、俺の体。



 ここぞとばかりに、アナベルは続きを開始する。ジッパーを下げて取り出したものは、半勃ち状態だった。



 「くすっ。」

 「・・・なんだよ?!」

 鼻で笑うアナベルに、コウがどういう状態なのかも忘れて、抗議する。



 「いや、随分と立派になったものだと。・・・昔、つるつるだった頃に、見たことがあるからな。」

 ・・・しかし、その口調はバカにしてるように、聞こえるぞ!・・・ううっ。急な刺激にコウの顔が歪む。アナベルがその『立派なもの』を口に含んだのだ。



 「ああーーーっ!」

 初めての濡れた刺激に、コウの口から嬌声が漏れる。アナベルの舌が、先端をなぞったり、実と皮の境目をゆっくりと舐めたり、根元から上へ裏側を擦り上げている。自分の手でなら、もちろん経験があるが、全然比較にならない。・・・気持ち良すぎ。



 「うわっーーー!」

 今度はぎゅっと全体を唇で挟んで、強めに上下する。コウの初々しい男根は、あっという間にかちかちに硬く尖って、先端から透明な汁が滲み出る。舐め取ったアナベルは、コウの限界が近いことを知って、さらに動きを早くする。



 「だ・・・出るっ!!!」

 ビクンと自らも腰を突き上げて、コウはアナベルの口の中に、熱いものを吐き出した。アナベルの喉仏が動いて、それをゴクッと飲み下す。



 「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・あああっ?!」

 つかの間の休息も与えないままに、アナベルはコウのGパンを剥ぎ降ろすと、そのまま後の入口へ舌をつけた。未知の感触にコウの腰が浮かび上がる。が、太腿の間に顔を入れて、両手でコウの足を押さえ込んだアナベルは、逃がすことを許さない。ぐっと、コウの精液も残っている舌を、後門に押し付けた。



 「ひっーーー、やめ・・・あああっ!」

 花びらのようなそこを丁寧に舐めていく。皺のひとつひとつ、それから中心にのぞく穴。ぐいっとすぼめた先端を押し込んだ。湿ったカンジが・・・なんだよ・・・これって???

 たっぷりと濡らした後で、舌を指に切りかえる。アナベルの長い指が穴の中にもぐり込んでいく。ずーっと進んだそれは、内部でくいっと曲げられ、内側の壁を探り始めた。ぐしゅっぐっしゅっと指が出入りするつど、妙な音が辺りに響く。



 コウの気が遠くなる。・・・何も考えられない。気もち良すぎだけど・・・そんなとこ触ってどうすんだろう?


 
その答えがわかるのは、ぐったりしたコウの足の間に、アナベルの立派すぎるものが押し込まれ、猛った情熱のままに、狭い門を破った時だった。・・・・・・・・・でも、後の祭り、だ。





 1度目は苦痛。2度目はまぁまぁ。3度目はかなり気もち良かったけど、・・・4度目にはぐったりしてしまって、それどころじゃなかった。・・・だから、どうしてこうなっちゃったんだろう。





 「10年前から、決まってたんだな。・・・・・・・・・ところで、このベッドは、ホテルより上等だ。・・・やっぱりお薦めだな、ここは。」

 隣に寝ている男が、平然と言う。



 「・・・ほんとに、10年も覚えてたの?」

 「そういうことに、しておけ、・・・・・・・・・幸せだろう。」

 あまりの熱さに、開け放った窓からは、瀬戸内の海風が入り込んでくる。



 「・・・俺さぁ、彼女いるんだけど。」

 「私も、彼ならいるな、ドイツに。」

 「・・・・・・・・・やっぱり、ホモだったんだ!!!」

 「いや、好きな人は好きなだけだ、男でも女でも。・・・間違ってるか?」

 真剣な顔でそう言われると、コウも困るしかない。・・・男でも好きだった『アナベル』。ただし男だと思ってなかったが。悪い奴じゃなかった。ついさっきまでは。・・・今もそんなに悪くはないけど、危ない奴になっちゃったなぁ・・・はぁぁ。





 「・・・・・・・・・どうすんの、これから?」

 「まだ、契約期間があるから、日本にいるが・・・、その後は考えてない。」



 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あのさー、来週サッカーの試合があるんだけど、・・・見に来る?」

 なんだかわからないが、コウは言った。言ってしまった。この『セカンドラブ』が、なんだか急に、あの頃みたいに、楽しいものに思えてきたから。



 「そうだな・・・・・・・・・そういえば、まだジャグジー風呂を試してない。」

 「・・・えええーーーっ(げっそり)。」

 「それが終ったら、また家の前でボールでも蹴ろう。」



 ・・・・・・・・・そう昔みたいに、昔とは違うけど、結婚なんて絶対できないけど、こういうのもいいかも。





 梅雨がはじまる前の、重たい風が吹き込む南国風の部屋で、後れてきた恋が瑞々しさを取り戻した、そんな夕方だった。















+ END +










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このお話は初めての『星の屑月間』の時に、
パスワードクイズのプレゼント小説として用意したものだったんですが・・・、
結局、もう一本別のお話を書いたので、お蔵入りになってました。

なので、読んだことある人は約2名だけだと思います(笑)。

お正月っぽくラブっぽいかと思いアップしてみました。
(ちょっと恥ずかちいですが・・・)。

管理人@がとーらぶ(2001.03.16初出。2006.01.01再アップ)











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