幸福な王子




















 むかしむかしあるところに一人の王子様がいました。国中の尊敬を集める父親と美人の母親とその母にそっくりなこれまたかわいらしい妹がいる上、流れるような金髪に春の空のような青い瞳とシミひとつない白い肌とすらりとした手足を持った王子様は、誰もが羨む幸福を一身に背負っているようで、その実、彼だけがこう思っていたのです。



 「・・・ああ、なんと退屈な人生だ。」



 もうすぐ20歳になる王子は、この国のしきたりにそって立太子式を迎えます。頭も悪くない王子は、そうなるとこれまでみたいな悪さもできなくなるなぁ(体面上)ぐらいには、自分の立場をわかっていました。そこで自分の顔がかなり割れているこの国以外で最後の悪あがき(!)をしてこようじゃないかと、王子は遊びに出かけました。目指したのは七つの国の中のいちばんの新興国、その名もサイド7、でした。















 さらさらと小さな粒の雨が降りしきる中、真っ赤なフェラーリ(なのです)に乗った王子様が初めての道を飛ばしています。どこかに適当に遊べそうなカワイイ子はいないかな?などと思ったりしています。すると、

(がたんっ!)

 「くっ?!」

 あらあらあら、調子に乗りすぎたのでしょうか、ぽっかりと突然あらわれた泥のぬかるみにタイヤを落としてしまいました。



 雨の中、いくらアクセルを踏んでもタイヤはきゅるきゅると音を立ててから回りするだけです。何せフェラーリの馬力ですから、エンストしないようにするだけでも大変・・・。途方にくれる王子の前に、だんだんと近寄ってくる人影が。それは傘をさした少年でした。・・・それなりにカワイイ。くるくる巻き毛とまあるい瞳が愛らしい。・・・これは!



 「君、君、ちょっとそこまで傘に入れてくれないか?」

 言うが早いか、王子はもう白い傘の下に入り込もうとしています。身長差のせいで、王子の頭は傘につっかえそうでした。ほんとは、雨に濡れようが構わないのですが、これもナンパの初歩。



 「・・・・・・・・・傘なら貸しますから。」

 少年は、そう言って、傘から抜け出そうとしました。初対面の相手にこうもずうずうしく側に近寄られることが、気持ち悪かったのです。



 「待って!・・・君!」

 「?」

 その時、王子は少年を間近に見ました。目と目が合いました。茶色の瞳に星が浮かんでいました。





 突然、王国に白鳥が飛びました。





 透き通るような声の歌が聞こえました。










 雨が上がって太陽が顔を出しました。宇宙が輝くようでした。















 そうして燃える心の疼きが芽生えました。















 王子は手慣れたやり方で、・・・つまりは女にけしてノーと言わせないような自慢の顔を少年に近づけて、唇を重ねました。少年は、びっくりして目を開いたまま硬直しています。・・・ほんのちょっとそのままでいた後で、少年は急に抗いました。なにもかも初体験で、でもただらなぬ事態に、慌てながら身体をもごもごと動かしたのです。しかし王子は、それを許さない強い力で少年をフェラーリに引っ張りこみました。










 ・・・・・・・・・そうして強引に少年のハジメテを奪ったのでした。















 「どういうことだ?!」

 コトが終わったあとで、王子はつぶやきました。・・・・・・・・・別に自分がやったことを後悔してのセリフではありません。こういうことは、日常茶飯事でしたし、そのことで相手に訴えられるとか、マスコミに衝撃の告白されるとかの経験もないのです。

 ただ王子は、少年のあまりの具合の良さに、いままで何人も何十人も何百人も寝てきたのにその全てを上回る快楽に信じられない気持ちでした。旅先で遊んでポイで終わり・・・とするには、もったいなくて、・・・いやそんなことより、何より、少年さえいれば、一日中セックスしてれば、いや、ずっとずーーーっと、やり続けてれば、こんな楽しいことはないよな、・・・とまで思いました。



 父王は、王として絶大な権力を持ち、『ニュータイプ論』とかを唱えて、明日の宇宙を担う人物として七つの国全てを率いるに相応しいと崇められてます。妹姫も『ニュータイプ論』とやらに心酔しています。なのに王子は、父の言ってることが理解できません。要はぜんぜんピキーンときません。こんなことで将来、国を治めていけるのだろうか?・・・時々沸き起こる疑問。それがまたぶり返してきます。





 (ベッドの中でずーっと気持ちのいいことを)















 王子は少年を連れていくことに決めました。





 ・・・どこに?










 ・・・・・・・・・それはこれから決めればいいこと。とりあえず秘密貯金でいっぱいのプラチナカードもあることだし。















 あの白鳥を少年も見たのか、王子は考えもしません。















 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・だって王子は自分の幸福が大切なのですから。

























END










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ヒナちゃんに捧げます。
フェラーリは好き?(笑)。

(2003.5.20)











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