あなたをおもうこころで、このみをやきつくして、はいになったすべてを、そらにまきちらして、おれであったものが、なんにもなくなったら、さびしいとおもってくれますか?
 ファに言われた。
 「カミーユ、最近よく食べるわね。」
 「うるさい。余計なお世話だよ。」
 母親みたいなこと言うな。母親でもないくせに。・・・もっとも俺のお袋なんて、俺が晩飯を食べようが食べまいが気にもしてなかったか。
 (あの人に似てるだなんて耐えられない。・・・男らしくなるんだ)
 ファに言われた。
 「カミーユ、どうしたの?ここんとこ食欲ないじゃない。」
 「いいだろ、別に。・・・疲れてるんだ。」
 どうしてそうお節介なんだ。まとわりついてるヒマがあるなら、シンタとクムの面倒でもみてやれよ。
 (あいつに似てきたなんてイヤだ。もっと痩せないと。・・・二番煎じなんて言わせるものか)
封 印
 何十回目の情交になるだろうか。カミーユ・ビダンはベットの縁に腰掛けたクワトロ・バジーナの広く逞しい背中に向けて聞いた。
 「ね、なんで俺とセックスすんの?」
 「・・・それは、あまり上品な質問ではないな。」
 クワトロはカミーユの方を見ることなく、脱いだまま床に落としていたブリーフを拾い足を通す。
 「・・・じゃあさ、俺の中って気持ちいい?」
 「・・・・・・・・・ああ。」
 これも上品な質問ではないのに、ブリーフを腰まで引っ張った後、返事をしながら振り返る。その右手をカミーユの頬にあて親指でゆっくりと下唇を左から右になぞって・・・くちづけた。唇がほのかに触れる柔らかなキスだった。それからすっと立ちあがって、黒いアンダーシャツと赤いジャケットを着込んでいく。
 「・・・・・・・・・カミーユは気持ち良くなかったか?」
 意地悪いクワトロの声が裸身を薄いシーツに包み膝を曲げてベッドの上に座っているカミーユの耳に届く。
 「うーん、・・・気持ち良かったけど。・・・・・・・・・・・・・・・・・・俺、挿れたことないから、どんな感じなのかと思って。」
 ふっ・・・とクワトロが鼻で笑う。
 「試させてやろうか?」
 「!」
 「・・・冗談だ。」
 そうしてクワトロは部屋を出ていく。残されたカミーユは、シャワーを浴びるためにベッドを出た。立ち上がると、クワトロが散らした欲望が足の間に垂れてくる。
 (汚ない)
 だから、自身の放った精液とカミーユの匂いにまみれたまま、身体も洗わず下着をつけてこの部屋を後にするクワトロ・バジーナという人間のことを考える。
 今、戦闘配備のアラームが鳴り響いて、ノーマルスーツルームでパイロットスーツに着替えて、でも下着はそのままで、匂いも爪痕もセックスの名残りを身体中に残したまま戦えるんだろうか。・・・戦えるんだろう。・・・・・・・・・ビームサーベルで薙ぎ払い、ビームライフルを撃って、誰かを殺して。でもその身体には俺が。俺が舐めたあと。俺がつけた傷。俺の中の匂い。
 そんな光景を想像して、気持ち悪さに身体が震えた。
 (だめ。カミーユが壊れちゃう)
 恋人のような母親のようなフォウの優しい声。
 (ごめん。・・・だって、苦しんでるのがわかるから)
(お兄ちゃん。もっと楽しいことしなきゃ)
妹のような姉のようなロザミィの甘い声。
(これが俺の楽しいことなんだよ)
 「近づきすぎるのは止しなさい。・・・・・・・・・本質的には冷たい人よ。」
 保護者のような先生のようなエマさんの凛とした声。
 「わかってます。・・・でも冷たくても熱くても結局火傷は負うんです。」
 「・・・馬鹿な子ね。」
愛が欲しいと全身で叫びながら、与えられる愛に気づかぬ人に、俺は身体を投げ出す。教わったまま、指で触れ唇でなぞり舌で舐めて咥え込む。与えても与えても底無し沼にはまったみたいにキリが無く。この愛に意味は無く。
「もう少し・・・もう少ししたら、みんなに俺をあげるから。」
(今はすべての声を封印して戦う)
あなたをおもうこころで、このみをやきつくして、はいになったすべてを、そらにまきちらして、おれであったものが、なんにもなくなったら、さびしいとおもってくれますか?
・・・いつか愛に気づいて。
END
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倉沢ヒロさんに捧げます。
遅くなったあげくに、ラブラブじゃないので、ダメだったらごめんなさい。
(2002.12.11)
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