残 照
−アムロとコウ−
『なんで、こんなものを地上に落とす!これでは地球が寒くなって人が住めなくなる。核の冬がくるぞ!』
(愛してた)
『地球に住む者は自分たちのことしか考えていない。・・・だから抹殺すると宣言した。』
(愛してた)
『人が人に罰を与えるなんて!』
(愛、なんて陳腐な言葉だ)
『この、アムロ・レイが粛清しようというんだ、コウ。』
(でも他にどう表現すればいいのかわからない)
『エゴだよ、それは!!!』
(求め欲し探し続けたもの)
『地球がもたない時が来てるんだよ。・・・・・・・・・それに、』
君だけはわかってくれると思ってたのに。
あの人を失った痛みを。
ガラスの心臓から吹き出す真っ赤な血。・・・・・・・・・それはイメージ。
『わからない。・・・・・・・・・いや、』
わかっちゃいけないんだ。
ただひとりの人はもういない。
まっすぐ伸びた幹に無数の引っ掻き傷。・・・・・・・・・それはただのイメージ。
宇宙世紀0093年3月4日、阻止限界点を越え地球への落下が確定となったフィフス・ルナの表面で、二機のモビルスーツが戦っていた。・・・戦っていたはずなのだが、組み合ったまま動かない。ネオ・ジオンのアムロ・レイ総帥が駆るMSN-04サザビーの赤とロンド・ベル隊のコウ・ウラキ大尉が乗るRGZ-91リ・ガズィの白。金属同士が触れ合って、金属なのに伝わってくる。声が。・・・思いが。
かつてカラバのダブルエースとして轡を並べた。今は敵として対峙している。地球に落ちる隕石はコウの悪夢を呼び覚ます。それを為そうとしてるのはアムロ。友人だと思っていたアムロだ。
伝わってくる。アムロの痛みや苦しみや悩みや寂しさ。それでもコウはフィフス・ルナをどうしても止めたかった。
伝わってくる。コウの思いやり同情共感反発。それでもアムロはフィフス・ルナをどうしても落とさなければならなかったのだ。
一年戦争が終わってから、勘がいい人間や飛び抜けた戦果のある者を、ニュータイプと称することが流行った。わずか16歳にして、連邦軍内の撃墜数第二位を誇ったアムロ・レイは、その代表のように見られていた。
だが関係ない。
関係ないんだよ。
オールドタイプとかニュータイプとかそんなことは関係なくて、
その人が大切なら、
大事に思っているなら、
わかりたいなら、わかろうとするなら、
伝わる。
伝えることができる。
現に今、こうして聞こえる。
だから落としちゃいけない!
コウの奮闘むなしくフィフス・ルナは連邦軍本部のあるチベットのラサに激突。その映像を見ながら沸き起こる感情は、かつて経験したものだった。今とあの時の、二度の屈辱が同時に身体を走る。・・・吐きそうだ。だからこそここで終えるわけにはいかない。まだ追いかけられる。あきらめない。
すっかり慣れた赤地に金の刺繍がほどこされた総帥服に袖を通しながら、アムロは始まってしまったことを実感していた。フィフス・ルナは落ちた。昔、憎しみの光がソロモンを焼いた時のようには感じない。ニュータイプとしては盛りを過ぎたのだろうか、それとも汚れてしまった者にはもう何も聞こえないのか。
(愛してた)
END
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たいへん読みにくいかと思いますが、
細部を突っ込むんじゃなくて、
感情とか雰囲気とかを味わってもらいたいのです。
(2002.11.20)
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